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ニュースレター2023.4.3

【M&A】株式公開買付制度及び大量保有報告制度の見直しの動きについて ~ 一定の場合、有価証券市場内の買付けにもTOB 適用の方向。大量保有報告制度の改正と併せ今後の動向を要確認~

AIWA NEWS LETTER

筆者:ディレクター 中山 豊聰

はじめに

2023 年3 月2 日、金融庁が同日開催の金融審議会総会(内閣総理大臣の諮問機関)に対して、株式公開買付(TOB)制度や大量保有報告制度の改正について検討するよう指示したと報道されました。

公開買付けのルール見直しは、2006 年の改正以来17 年ぶりとなり、現在公開買付けの適用対象となっている一定の条件に該当する有価証券市場外での株式取得に加え、有価証券市場内で株式を買い集める行為に対しても、一定の基準に該当する場合には公開買付けの実施を義務付ける方向で検討されている模様です。大量保有報告制度に関しては、最近見られるアクティビスト投資家による敵対的なM&A/株式買い集めの動きに対応して、実質株主が誰であるのか情報開示の透明性を高めるため、一定の関係にある複数の者による株券等の共同保有の開示をより厳格化する方向で検討すると報道されています。

M&A に携わる実務関係者としては、今後の金融審議会総会でのワーキンググループにおける本件の検討や実際の法改正に向けた動向を確認しておく必要があります。本稿では、現時点で判明している検討内容や想定される影響について概観いたします。

現在の公開買付制度と今回の改正検討のポイント

日本の公開買付制度は1971 年に初めて導入されました。公開買付制度の趣旨は、上場企業(※)についてM&A による所有と経営の交代が起きる場合に、これを好ましいと判断しない一般投資家のために投資エグジットの機会を確保する「一般投資家保護」にあります。

一例を挙げれば、上場企業の過半数を所有する親会社が、M&A で株式市場外において当該上場企業株式を売却しようとする場合、買主に公開買付けを実施させることにより、かかる所有と経営の交代を是としない一般投資家が、当該親会社と平等の価格その他の条件で株式を売却できるようになります(そのM&A が気に入らない(株価の上昇には繋がらないと考える)一般投資家が株を売って他の銘柄に乗り換えることができるようにする、ということです)。

もし公開買付制度がなければ、一般株主の知らない間に上場企業の大株主と経営陣が交代してしまうことになり、一般投資家保護の観点から好ましくないものと考えられます。

現在の公開買付制度では、有価証券市場内で特定の銘柄の株式を買い集める行為に対しては、いかに短期間に多数の株式を買い集めても、公開買付けの適用はありません。その主たる理由は、有価証券市場内の取引では一般投資家の知らない間に支配的持分が相対で一度に売買されてしまうという事態が基本的に想定できないためです。

しかし最近では、経営陣や一般投資家が気付かないうちにアクティビスト投資家を中心に複数の投資家・株主が手を組んで有価証券市場内で特定銘柄を買い集め、ある日突然、大株主グループが登場するウルフ・パック戦術(群狼戦術)と呼ばれる新しいタイプの株式買い集め行為が見られるようになり、公開買付制度及び大量保有報告制度の潜脱行為ではないかと問題視されるケースが出現しています。このような買い集め行為の場合、複数の投資家間の協力関係を外部的に立証することも困難なため、金融庁も頭を悩ませていると聞かれます。

このような状況を踏まえ、今回の改正では、一定の条件に該当する場合には、有価証券市場内で株式を買い集めようとする場合でも、公開買付けによることを義務付けることが検討されています。具体的には、一定期間内に対象会社の発行済株式数の1/3 以上を取得することとなる場合には、公開買付けを実施することが金融商品取引法上義務付けられるようになる方向性と思われます。

要は、短期間に多数の株式を買い占める行為は、それが有価証券市場内での買付けであっても、一般投資家の投資判断に大きな影響を及ぼすことに変わりないため、その場合は公開買付けの手続きに則って、「買付者の素性や買付けの目的を明らかにして買付けを行いなさい。」という趣旨です。これが適用される基準については、有価証券市場外での買付けの場合と同様、株主総会の特別決議で拒否権を行使できる持株水準である1/3 超に置くことを想定していると思われます。

(※)日本の公開買付制度は、上場企業だけではなく、非上場企業であっても有価証券報告書の提出義務を負う会社(継続開示会社。株主数1,000 名以上)に対しても適用されますが、本稿では上場企業に絞って検討いたします。

現在の大量保有報告制度と今回の改正検討のポイント

株券等の大量保有報告制度は、アメリカの制度(1968 年に導入)を参考として我が国では1990 年に初めて導入され、上場株券等の保有割合が5%を超えた場合、5 営業日以内に大量保有報告書を金融庁に提出しなければならないというものです。その後1%以上の保有割合の増減がある場合にはその都度、大量保有変更報告書を提出する必要があります(期限は同じく5 営業日以内)。2022 年中には11,694 件の大量保有報告書が提出され、このうち、株券等の保有目的を記載する欄に「重要提案等を行う」ことが明記された(すなわちアクティビスト投資家と考えられる)報告書の件数が100 件あった模様です。

大量保有報告制度の趣旨は、一般投資家への情報開示であって、株価に影響を及ぼし易い株券等の大量保有の情報を速やかに公開させて市場の公正性・透明性を高めるとともに、一般投資家保護を徹底しようとするものです。株式市場ではさまざまな動機に基づいて企業の株券等を大量に取得するケースがありますが、そうした場合には株価が乱高下することも多く、一般投資家が不測の損害を被る虞があるため、株券等の大量保有の状況に関する情報が広く一般投資家に開示される制度が必要・有益と考えられ、本制度が導入されました。

今回、M&A との関係で改正の検討対象となるのは、まず共同保有者の定義の詳細化・明確化です。現行制度では、共同して特定銘柄の株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は議決権その他の権利を行使することを合意(書面と口頭とを問わない)している場合に、これを実質共同保有者と定義し、大量保有報告書の提出義務の有無(株券等保有割合 5%超)は両者の保有分を合算して判断されることになっていますが、今回の見直しでは、この定義をさらに詳細なものとする方向で検討開始されている模様です。

また、上場会社の実質株主が誰であるかの情報開示について強化する方向で検討が開始されています。現在、アクティビスト投資家が信託口座で保有している株式については、当該投資家が実質株主であるものの、名義上は当該信託口等が株主となっている(株主名が「〇〇信託銀行 信託口」といった表記しかなされない)ため、大量保有報告書や変更報告書では実質的に保有されている株券等の割合を把握することが困難です。このため、機関投資家株主比率の高い会社では、実質株主の動向を探るため、定期的に外部の調査会社に委託して実質株主調査を行い、アクティビスト投資家の動向をモニタリングする等の対策が取られていると思われます。

いずれにしても、日本におけるアクティビスト投資家の活動は、あらゆる規模の上場会社において常に発生する可能性のある一般的事象として意識する必要があり、上場会社では日頃から準備しておく必要があると言えるでしょう。平素から自社の状況について次のような観点から分析・検討を行い、具体的な対策を進めることが必要と考えます。

(i)事業の選択と集中の観点から、売却を図るべき事業の有無
(ii)遊休資産や政策保有株式等の保有資産についての処分可能性
(iii)自社の株価が妥当なバリュエーションになっているか、割安と思われる場合には何が原因か
(iv)ROE 等各経営指標に問題点はないか
(v)コーポレートガバナンスの観点から攻撃の対象とされる点はないか 等

平素から定期的に実質株主の調査を行うことにより、自社の株主構成を把握しておくことも重要と考えられます。コーポレートガバナンス・コードでも、「上場会社は、必要に応じ自らの株主構造の把握に努めるべきであり、株主もこうした把握作業にできる限り協力することが望ましい。」(補充原則 5-1③)とされているように、上場会社において自社の株主構成を把握すべきとの認識は広がっています。平時から留意を要する株主の存在をチェックし、その株主の行動様式等について調査し対応を行うことが重要となるほか、有事になった場合において、どれだけの株主がいわゆる与党株主として経営陣を支持してくれるかの分析も有用となります。

今後のアクティビスト投資家の動向等に与え得る影響

上記のような公開買付制度や大量保有報告制度の改正・強化が実施された場合に、アクティビスト投資家の動向等にどのような影響が有り得るかを少し考えてみます。

まず、公開買付制度改正の関係ですが、公開買付けの適用範囲が有価証券市場内取得にまで拡大されても、アクティビスト投資家による上場企業の株式買い集めやM&A を考える際にはそれほど大きな影響が生じることはないのではないかと、現時点では思われます。

現行制度下でも5%ルールが存在するため、有価証券市場内・市場外取引を問わず、最初に保有比率が5%に到達したときに大量保有報告書の提出が必要となり、その後1%以上保有比率が増える(又は減る)ごとに変更報告書の提出が義務付けられていることから、アクティビスト投資家が発行会社や市場関係者に知られずに大量の株式を買い集めることは難しいと言えます。

アクティビスト投資家は通常、有価証券市場内で狙った上場会社の支配権を握る(株式保有比率50%超の水準)まで市場で買い進めることは考えず、一定の影響力を行使し得る20%~1/3 未満までの取得を目標に株式を買い集めることが多いと思われます。この過程で、5%ルールにより買い集め行為は対象会社や市場の知るところとなり、対象会社によるさまざまな対策も実施されるでしょうし、市場株価も通常高騰してしまいます。また、市場で流通する株式も減っていきますので、それ以上の買い集めは現実的に難しくなることが多いでしょう。その先さらに株式保有比率を引き上げようとする場合、結局、TOB に打って出るしか方法はないと考えられます。従いまして、アクティビスト投資家にとっては、今回の規制強化が実現しても、実質的に現行制度とあまり変わらないのではないかと思われます。

一方、通常の友好的M&A の場合は、買収対象会社の了承を得ずに有価証券市場内で株式を買い集めることは想定されず、合意がされたうえで公表し、公開買付けを実施する(そこで初めて株式を取得する)方法が通常であるため、そもそも今回の規制強化はほとんど影響ないものと思われます。

次に大量保有報告制度の改正に関しては、共同保有者及び実質株主の開示ルールが厳格化された場合に、アクティビスト投資家による上場株式の買い集め行為が抑制されるかどうかがポイントと思われますが、こちらも、アクティビスト投資家らの活動を大きく抑制するような効果は持たないものと思われます。

何故なら、アクティビスト投資家は、いずれ必ず名前を明かして投資対象の上場会社に様々な要求を行う存在だからです。今回の規制強化が導入されても、基本的には、名前が明らかになるのが多少早いか遅いかという問題に過ぎません。特定の銘柄への投資意思決定に際して、どれくらいの期間、匿名性を維持して買い進められるかは、現在でもほとんど影響していないと思われます。アクティビスト投資家の投資意思決定はひとえに、対象会社にどれほどの潜在的なバリューアップ可能性があるか、またどれくらい株式の流動性が高いか(大株主が少なく、市場で流通している株式が多いほど株式買い集めがし易いと考えられるので、好ましい)といった観点から行われるものであり、匿名で買い集めを進められる時間の⾧短は、もちろん⾧い方が好ましいことは明らかですが、通常決定的な要因とはなり得ません。

最後に

公開買付制度及び大量保有報告制度は現状でもなかなかに複雑であり、個別の具体的案件への適用・届出要否は、金融商品取引法の実務に精通した法律事務所のアドバイスを得て、必要に応じ所管の財務局への事前相談も行いながら慎重に判断する必要があります。現在検討されている改正の実行後は、実務への影響は限定的なものではないかと現時点では想定されますが、いずれにしてもより複雑性を増した制度となることは確実と思われます。

今後、金融審議会においてワーキンググループを作って議論を進め、2023 年の夏以降の報告書取りまとめを予定しているとみられますが、引き続き報道等を通じて随時、議論の進捗状況をフォローアップしていく必要はあると考えます。

M&A プラクティスグループ(ma@aiwa-tax.or.jp

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