東京都港区の税理士法人 あいわ税理士法人/あいわAdvisory株式会社

 
お問い合わせ

ニュースレター・コラム

ニュースレター2021.10.1

【M&A】株式交付制度(令和3年3月1日施行)の概要と特徴~制度の概要と実際の活用に際しての留意点~

AIWA NEWS LETTER

筆者:ディレクター 中山 豊聰

はじめに

株式交付制度は、新たなM&A 手法として、令和元年の会社法改正で導入・今年の3月1日施行され、既存の株式交換制度と異なり、完全(100%)子会社化とならない範囲で他の株式会社を自社の子会社とすることができる制度です。例えば、これまで一切の資本関係のなかった株式会社を、新たに51%とか66.7%子会社とすることが可能です。このとき、株式交付親会社は現金対価を用意する必要はなく、自社の株式を対価として対象企業を子会社化することができます。本稿では、この制度の概要と、実際の活用に際しての留意点等を説明いたします。

株式交付制度とはどのようなものか

A 社が、B 社を新しく子会社化するというM&A 案件で考えます。
実際のM&A では、案件当事者の諸事情から、例えばA 社がB 社株式を段階的に取得して最終的に完全子会社化したいという場合があります。
このような場合、従前は、売主・買主間で締結された契約に従い、A 社が段階的に現金対価をもってB 社株式をいくつかのブロックに分けて旧オーナーから取得していく方法がほとんどの場合取られていたかと思われます(例えば、51%⇒67%⇒100%など)。
A社がB 社を子会社化する方法としては、従前から株式交換(会社法2条31号)が存在しており、これまでも多数の事例で活用されています。株式交換は、A社株式を買収対価として使用し、一気にB 社を完全子会社化できる方法ですが、上記のような段階的子会社化の場合には活用できない、という欠点がありました(株式交換は、あくまで、B社を完全子会社とする=100%親子関係を形成するための手法)。
株式交付は、こうした点を補う手法として、令和3年3月1日の会社法改正で導入されました。その概略と特徴は、以下のようにまとめることができます。

  • 株式交付は、A社(日本の会社法上の株式会社であることが必要)が、B社(同様に日本の会社法上の株式会社であることが必要)を、新たに子会社とするための手法である(なお子会社とは、50%超の議決権を所有するものに限られるので、例えば33.4%を所有するためにこの手法を使うことはできない)(これまで50%未満を所有していた関係会社を50%超の子会社とする場合には、活用可能)
  • 外国の株式会社との間では実施できない

〈図表:株式交付〉
図表:株式交付

株式交付の実施に必要な手続き

株式交付をしようとする場合、必要とされる手続きの概略は、次の通りです。

  • A社において株式交付計画書を作成(会社法774 の2、774 の3)
    A社(株式交付親会社)は、会社法の規定に従い、株式交付計画で次を含む事項を定める株式交付子会社(B社)の商号及び住所、株式交付で譲り受けるB社株式の数の下限、B社旧オーナーに対価として交付するA社株式の数、株式交付の効力発生日、等
  • A社株主総会の決議による承認(会社法816 の3)
    簡易株式交付となる場合を除き、A社は、株式交付の効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議により株式交付計画の承認を受ける必要がある(簡易株式交付は、B社旧オーナーに交付するA社株式の対価の合計額が、A社の純資産の1/5 を超えない場合、株主総会決議を省略可能)。
  • A社における事前開示(会社法816 の2)
    A 社は、株式交付計画備置開始日から株式交付の効力発生日後6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容を記載した書面等を本店に備置する必要がある。
  • 譲渡の申込
    A社は、B社の株式について譲渡の申込をしようとするB社旧オーナーに対して、株式交付計画の内容等を通知し、この通知を受けたB社旧オーナーは、所定の事項(住所氏名、譲渡株式数等)を記載した書面をA社に提出する。
  • A 社が譲り受けるB社株式の割り当て
    A社は、株式譲渡の申込があったB社旧オーナーの中から、B社株式を譲り受ける者を定め、かつそのB社旧オーナーに割り当てるA社株式数を定める。そのうえで、株式交付の効力発生日の前日までに、申込者に対して譲受株式数を通知する。
  • 株式交付をやめることの請求(会社法816 の5)
    A社の株主(株式交付親会社の株主)は、株式交付が法令又は定款に違反するため不利益を受けるおそれがある場合、株式交付をやめることを株式交付親会社に請求することができる(簡易株式交付となる場合を除く)。
  • 反対株主の株式買取請求手続き(会社法816 の6,816 の7)
    反対株主は、自己の有するA社株式を公正な価格で買い取ることを会社に請求することができる(簡易手続となる場合を除く)。
  • 債権者保護手続き(会社法816 の8)
    A 社の債権者は、B社旧オーナーに株式交付に際して一定割合以上の金銭を対価として交付する場合、A社に対し異議を述べることができる。債権者が、債権者保護手続きの期間内に異議を述べたときは、A社は、弁済・相当の担保提供・相当の財産の信託のいずれかを行う必要がある(その株式交付を実施しても債権者を害するおそれが明らかに無いときを除く)。
  • A 社における事後開示手続き(会社法816 の10)
    A 社は、株式交付の効力発生後遅滞なく、会社法所定の事項を記載した書面を作成し、効力発生日から6か月間本店に備置しなければならない。

B社またはB社の株主における手続き

ここまで読んでくださった方は、B社で株主総会の承認等は必要ないのかと疑問に思われたかも知れません。実は株式交付が株式交換と大きく異なる点のひとつは、A社とB社間では株式交付に関して何も契約を締結しないということです(株式交換では、A社とB社間で株式交換契約を締結する必要がある)。A社は、B社の旧オーナーとの間の合意のみに基づき、自社株式を対価として、B社の株式を譲り受けることになります。B社において特段の手続きは必要ありませんが、B社株式が譲渡制限株式である場合には、事前に旧オーナーから譲渡承認請求があるはずなので、これに対応する必要があります。

株式交付制度の留意点

株式交付制度の活用を考えるにあたり、主要な留意点としては次のような事項が挙げられます。

  • B社が株式を上場しているなど有価証券報告書提出(継続開示対象)会社であるときには、B社を新しく既発行株式の譲渡を通じて子会社化する場合は金融商品取引法上の公開買付規制に服すると考えられるため、株式交付が活用可能な状況であるかどうかを慎重に検討する必要がある。
  • 株式交付制度は、上記のようにA社がB社を「新たに」子会社としようとする場合に利用可能な制度であるため、現在すでに過半数の議決権を所有している会社について、所有比率を引き上げようとする場合(例えば51%⇒67%、51%⇒100%にしたい場合等)には使えない。このような場合は、案件の事情に応じて、公開買付や株式の相対譲渡、または株式交換等を通じて目的を達成することが必要となる。
  • 株式交付によって譲り受けるべきB社株式数に関して、A社は、株式交付計画において上記のように「最低何株のB社株式を譲り受けるか」を定める必要(以下、最低譲受数という)があるが、実際のB社株式の取りまとめに万一問題が生じて、株式交付の効力発生日において、譲渡の申込数が最低譲受数に満たなかった場合には、株式交付の効力は生じないことになっている。
  • B社の旧オーナーは、株式交付後にA社の株主となり、所有期間や所有比率によってはA社の運営に影響を与えることとなる。
  • 外国企業を株式交付制度により子会社とすることはもとより会社法において想定されておりませんので、対象外となる。

実際のM&A交渉における考慮点等

冒頭に述べましたように様々な点を考慮して導入されたこの株式交付制度により、大きくM&A が促進されるのではと期待される向きもありますが、実際のM&A の現場目線で考えますと、この制度の活用が広まるかどうかのポイントは、手続き面や税務面等以上に、買主(A社)の株式をM&A の対価として受領することが、B社の旧オーナーにどう受け止められるか、という点にあると思われます。

A社にとっては、株式交付を使えばM&A 対価に現金を使用しなくて良いというメリットが確かにありますが、このことは、相手方のB社旧オーナーから見ると必ずしも好ましい事ではありません。M&A でも常に「人の身になって」考え、交渉する視点が重要です。また、A社から見ると株式交付後、B社の旧オーナーがそれなりの所有比率を持つ株主となります。B社旧オーナーが短期的にA社株式を誰かに譲渡してエグジットしてくれない場合、経営上どのような影響があるかもA社としては検討する必要があります。

今後の株式交付制度の活用については、主として買主(上記におけるA 社)が上場企業である場合が中心となり、非上場企業が買主となる場合の活用は、限定的となるのではないかと想定されます。親会社と個人オーナーとを問わず、会社を譲渡することは極めて大きな決断であり、決断した以上は「一時に経営権を移譲してお任せしたい」というお気持ちであることが多いと思われます。こうした状況で、気配相場がなく直ちに現金化できない非上場のA社株式を対価として受領し、継続的に保有することは、現金や上場株式を受領する場合と比べてメリットが少ないと思われます。

なお実際のM&A 交渉においては、旧オーナーとしては上場A 社株式より現金対価を選好する場合も多いと想定されます。旧オーナーとしては、いずれはA社株式を現金化したいはずですが、M&A の対価としてかなりの数量の株式を受領するはずで、実際の現金化に際しては、相場の状況を見ながら時間をかけて段階的に売却する必要がある場合も多いと思われます。そういった手間や市場価格のダウンサイドリスク等を考慮すると、株式交付スキームでの譲渡に合意するには、A社株価に相応のアップサイドを期待する場合が多いと思われます。A社としては従前と同様、株式の交付比率をより有利にできることもあり、常に自社業績と株価の向上を意識した経営がここでも重要となると言えそうです。

最後に

実際のM&A 案件における株式交付制度の活用には、案件の相手方との折衝に加え、思わぬ課税関係を回避するため税務面の詳細な検討・確認も極めて重要となります。ぜひ、早期の段階で私どもあいわ税理士法人グループにご相談くださいますよう、お願い申し上げます。

ニュースレター・コラム一覧へ戻る