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コラム2020.8.1

【コラム】株式報酬制度

筆者:江角 篤人

はじめに

従来の経営者に対する報酬制度は固定報酬や賞与などの金銭型報酬が中心でしたが、近年、経営者に株主目線での経営を促すことや中長期の業績向上のためのインセンティブを与えることを目的として自社株式を交付する株式型報酬を導入する上場企業が増えています。こうした流れは2014 年に日本政府が成長戦略の主要施策として「コーポレートガバナンスの強化」を掲げ、同年の日本版スチュワードシップコード及び2015 年のコーポレートガバナンスコードの策定を機に本格的に導入されました。また、この株式報酬制度の導入を促進するために法律の整備が進み、税法においては2016 年度税制改正にて特定譲渡制限付株式の損金算入が認められ、2017 年度税制改正にて役員報酬制度全体の損金算入要件が整備され、明確化されました。

株式型報酬の種類

株式型報酬はストック・オプション(以下、SO という)と現物株式に分別され、まとめると次の通りです。なお、SO とは企業が経営者等に対し、将来の職務執行の対価としてあらかじめ定められた価格(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)をいいます。


  • 通常型SO(税制適格SO)
    税法上の税制適格要件を充足したSO を「税制適格SO」といい、SO を付与された経営者等において課税されるタイミングは権利行使後に取得した株式を売却した時点であり、かつ株式譲渡所得となるため株式報酬型SO に比べ税負担が軽減されます。
  • 株式報酬型SO(1 円SO)
    株式報酬型SO は株式取得に際する権利行使価格が1 円のSO をいい、権利行使価格が時価より低いことから税制適格要件を満たないSO です。税制適格要件を満たさない場合、権利行使価格時において給与所得課税されることから通常型SO より税負担が重くなります。
  • RS(リストリクテッド・ストック)
    RS は企業が経営者等に対し、職務執行の対価として、一定の継続勤務を条件に譲渡制限付株式を事前に交付し、継続勤務条件を達成することで譲渡制限が解除される報酬スキームです。
  • RSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)
    RSU はRS と異なり継続勤務条件の達成後に株式を交付する事後交付型の報酬スキームです。
  • PS(パフォーマンス・シェア)
    PS は企業が経営者等に対し、職務執行の対価として、事前に決められた業績目標等の達成を条件に譲渡制限付株式を事前に交付し、業績達成度合に応じて譲渡制限が解除される報酬スキームです。
  • PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)
    PSU はPS と異なり事前に決められた業績目標等の達成後に株式を交付する事後交付型の報酬スキームです。
  • 株式交付信託
    株式交付信託は信託を通じて経営者等に株式を交付する報酬スキームです。株式交付規程を制定し業績や勤務状況などに応じて対象者にポイントを付与し、信託期間終了後に累積したポイント数に応じた株式を対象者に交付するスキームです。


RSU、PSU、株式交付信託は株式交付時、RS、PS は譲渡制限解除時において給与所得課税されます。

株式型報酬の効果

株式型報酬の導入で期待される効果は次の通りです。

  • インセンティブ効果
    経営者に中長期な目標を与え、その目標の達成度合に応じて支給額が変動する報酬制度を導入することで経営者の企業経営に対するモチベーションを喚起させることを期待するものです。
  • リテンション効果
    優秀な人材を自社につなぎ止めることや、外部から新たに獲得することを期待するものです。
  • ガバナンス機能向上効果
    経営者が株式を保有することで市場の株主と利害を共有し、中長期な企業価値向上に向けて企業統治の健全性、透明性、公平性を確保することを期待するものです。

おわりに

株式報酬制度はどのスキームでもいいから導入すればいいというものではありません。会社の業種や経営陣に求める機能、会社のステージなどに応じてどのスキームが適しているかを事前に検討することが重要となります。

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