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コラム2021.1.5

【コラム】居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控制度の見直し

筆者:眞野 紗央理

はじめに


居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で課税仕入れに係る支払の対価が1,000 万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産に該当するもの)の取得に係る消費税の課税仕入れについて、一定の制限が設けられるとともに、実態に応じて仕入税額控除を調整し、仕入税額控除の計算の適正化が図られることとなりました。

仕入税額控除の概要


仕入税額控除とは、消費税の課税事業者が消費税の課税売上にかかる消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除することをいいます。免税事業者は仕入税額控除の適用はありません。個別対応方式で計算を行う場合には、課税仕入れを課税売上げのみ対応する課税仕入れ、非課税売上げのみ対応する課税仕入れ、どちらにも対応する課税仕入れの3つの用途区分に分けます。

改正の背景


住宅の家賃収入は消費税が非課税であるため、本来、それに対応する仕入れとしてその建物の取得に係る消費税は、仕入税額控除の適用を受けることができません。しかし、意図的に金の売買を繰り返すことにより、免税事業者である賃貸事業は消費税の課税事業者となり、課税売上割合を引き上げることで、用途区分を必要としない全額控除方式、一括比例配分方式を採用し居住用賃貸建物の取得に係る消費税相当額の還付を受けるといった行為が問題とされています。


また、転売目的で取得したマンションを住宅として貸付けている場合、マンションに係る課税仕入れの用途区分を、転売のために取得したとともに、住宅の貸付けを行っていることからどちらにも対応する課税仕入れとするのか、転売目的である以上、課税売上げのみ対応する課税仕入れとするのかを巡って解釈が分かれています。


このようなことから、居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の計算が見直されました。

改正の内容

①仕入税額控除の制限

国内において行う居住用賃貸建物の取得に係る消費税の課税仕入の税額については、取得時に仕入税額控除の適用が受けられないこととなりました。

②消費税額の調整


上記①により仕入税額控除の適用が認められなかった居住用賃貸建物について、一定期間内(居住用賃貸建物を仕入れ日の属する課税期間から3 年)に、住宅の貸付け以外
の貸付け又は譲渡を行った場合には、実態に応じてそれぞれ下記の算式で計算した金額を仕入税額控除できることとなりました。


(a) 住宅の貸付け以外の貸付けを行った場合
仕入れの日の属する課税期間の開始の日から3 年を経過する日の属する課税期間の仕入れに係る消費税額に以下の金額が加算されます。
居住用賃貸建物の仕入れ等の税額×課税賃貸割合(※)
※課税賃貸割合


(b) 譲渡を行った場合
譲渡をした日の属する課税期間の仕入れに係る消費税額に以下の金額が加算されます。
居住用賃貸建物の仕入れ等の税額×課税譲渡等割合(※)
※課税譲渡等割合

A:C のうち住宅の貸付け以外の貸付けの対価に係る合計額
B:居住用賃貸建物の譲渡の対価の合計額
C:居住用賃貸建物の貸付けの対価の合計額

適用時期


上記の改正は令和2 年10 月1 日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合に適用されます。ただし、経過措置として令和2 年3 月31 日までに締結した契約に基づき令和2 年10 月1 日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入については、適用されません。

用途が不明な貸付けの取り扱い


改正前においては、建物の貸付けに係る消費税について課税か非課税の判定は、契約を基に判定することとなっていますが、令和2 年度の改正により、令和2 年4 月1 日以後に行われる貸付けについては、契約上、貸付けに係る用途が明らかでない場合であっても、その建物の貸付けの状況からみて、居住の用に供されていることが明らかなときは非課税として判定されることとなります。

実務への対応


12 月、3 月決算の法人では、この見直しがされて初めての申告となりますので、申告に誤りがないよう十分に注意しなければなりません。また、課税賃貸割や課税譲渡等割合を長期にわたって管理する必要があるため、ミスなく効率的に集計する方法を確立する必要があります。

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