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ニュースレター2026.2.24

【インセンティブ】ストックオプションの税務に関する近年動向の振り返り~上場準備会社等の対応を中心に~

AIWA NEWS LETTER

筆者:公認会計士 元安 美智

はじめに

近年、日本企業におけるストックオプションの活用が急速に広がりを見せています。特に上場準備会社やスタートアップ企業では、優秀な人材の獲得・定着、人的資本経営の観点から、ストックオプションは不可欠な経営ツールとなりつつあります。

こうした実務ニーズの高まりを背景として、ストックオプションに係る税務上の取扱いの利便性を向上させる改正が相次いで行われました。その代表例が、①令和5年7月公表の通達改正と②令和6 年度税制改正による税制適格ストックオプションの要件緩和です。

令和5年7 月の通達改正では、税制適格ストックオプションにおける株価算定ルールが明確化され、従来に比べて低い権利行使価額を設定しやすくなりました。さらに令和6 年度税制改正では、年間権利行使価額の限度額の引上げや保管委託要件の緩和、制度の対象となる社外高度人材の対象拡大などが行われています。

これらの制度改正により、上場準備会社等においては、従来に比べてより低い権利行使価額でインセンティブ効果の高いストックオプションを発行することが可能となりました。その一方で、権利行使価額の引下げに伴い、当初予定していなかった株式報酬費用の計上が必要となるケースが生じ、事業計画にマイナス影響を及ぼす可能性が指摘されています。

また、権利行使価額が低いストックオプション発行は、株式の希薄化や既存のストックオプションの保有者とのインセンティブの格差、さらには種類株式の希薄化防止条項への抵触といった論点も抱えており、資本政策上の調整が不可欠になります。

そこで、本ニュースレターでは、これらの近年の動向と改正内容を整理し、ストックオプションの活用における実務上のポイントを網羅的に解説します。

令和5年7 月公表の通達改正

令和5年7 月に国税庁より公表された通達改正は、非上場会社において税制適格ストックオプションの実務に大きな影響を与えるものでした。

税制適格ストックオプションに係る適格要件には、「権利行使価額はストックオプションの付与契約締結時における株式の時価以上であること」という要件があります。しかし、税務上、非上場会社における「株式の時価」の算定方法は必ずしも明確ではなかったため、通達改正前は、DCF 法等が用いられてきたのが実情です。

今回の通達改正により、非上場会社においては、財産評価基本通達で定める純資産価額方式や配当還元方式等によって算定した評価額をもって「株式の時価」とすることができることが明文化されました(セーフハーバールールの導入)。これにより、非上場会社は従来に比べて低い権利行使価額を設定することが可能になり、インセンティブ効果の高いストックオプションの設計が可能になりました。

令和6 年度税制改正における税制適格ストックオプションの要件緩和

令和6 年度税制改正では、税制適格ストックオプションの要件が緩和され、実務上の利便性が向上しました。その改正ポイントは以下の点に集約されます。

  • 年間権利行使価額の限度額の引上げ
    年間1,200 万円とされていた上限が 最大3,600 万円へ引上げられました。発行会社のステージに応じて、重要人材への大型付与が可能となり、優秀な人材の獲得・定着のための魅力的な⾧期インセンティブの設計が可能になりました。

  • 発行会社自身による株式管理スキームの整備(保管委託要件の緩和)
    税制適格ストックオプションを行使し株式を取得した場合、保管委託要件を満たすためには、金融商品取引業者等との契約に基づき専用口座を開設した上で当該株式を保管委託する必要がありました。
    しかし、近年では株式上場以外にもM&A等により非上場の段階で権利行使をするニーズが増えていることから、譲渡制限株式に限り、発行会社自身が株式の管理等をした場合でも保管委託要件を満たすことになりました。
  • 社外高度人材の対象範囲拡充
    税制適格ストックオプションの適用対象者となる社外高度人材について、一定の対象者には実務経験の撤廃や期間短縮を行うなど、要件が緩和されました。当該制度の適用には、社外高度人材の活用に関する所定の計画を作成し、主務大臣の認定を受けることが必要です。

    なお、令和5 年度税制改正において、設立から5 年未満の非上場会社に係る権利行使期間が延⾧され、付与決議日後2年を経過した日から15 年を経過する日までの間とされました(改正前は付与決議日後2年を経過した日から10 年を経過する日までの間)。

セーフハーバールールの導入による会計処理への影響

低い権利行使価額を設定できるようになったことはメリットである一方、会計処理上は以下の留意が必要です。

  • 想定外の株式報酬費用が発生するケース
    非上場会社においては、一般的に付与日の株式の会計上の時価と権利行使価額の差額を株式報酬費用として認識します。従来は、DCF 等で算定した会計上の時価を権利行使価額としていたため、株式報酬費用の計上が不要となる事例がほとんどでした。しかし、通達改正後は、税務上認められた方式により算定した評価額を権利行使価額とし、当該権利行使価額が会計上の時価よりも低くなる事例が増加しています。その結果、当初予測していなかった株式報酬費用の計上が必要となる事例が実務で発生しています。
  • 事業計画への影響
    株式報酬費用は販管費として計上されるため、営業利益に影響します。権利行使価額の引下げや発行数の増加により、想定外に多額の費用が発生するため、ストックオプションの発行に際しては、会計インパクトを事前に事業計画に織り込む必要があります。

上場準備会社等における実務での留意点

  • 事業計画における株式報酬費用の影響
    前述のとおり、低い権利行使価額でのストックオプションの発行はインセンティブ効果が高い反面、株式報酬費用が多額に計上される可能性があります。とりわけ役員への付与は費用インパクトが大きく、営業利益の圧縮要因となり得ます。
    上場準備段階においては、事業計画の管理は極めて重要であり、事業計画の未達は上場審査に影響を及ぼすため、発行タイミング・付与数・権利行使価額等について慎重な検討が必要になります。
  • 既存株主・既存のストックオプション保有者との公平性
    新規のストックオプションの権利行使価額を大幅に下げると、創業メンバーをはじめとする既存のストックオプションの保有者(過去付与者)よりも、後から入社してストックオプションを付与された者のインセンティブ効果が高くなる“逆転現象”が発生します。これにより、組織内の不公平感やモチベーション低下につながる可能性があります。また、株式の希薄化により既存株主の持株比率にも影響が出るため、過去付与者や既存株主に対しては発行前に丁寧な説明と調整が不可欠です。
  • 種類株式への影響
    優先株式等に希薄化防止条項が設定されている場合、低い権利行使価額のストックオプションの発行により、転換価額が自動的に調整され、種類株式から転換される普通株式が増加する可能性があります。
    想定外の株式の希薄化等につながる可能性があるため、法務・財務の視点を踏まえた総合的な検討が必要になります。

最後に

近年のストックオプションに関する税務上の取扱いの整備により、ストックオプションは従来よりも使いやすくなり、企業がより強いインセンティブ効果を持つ報酬制度を導入できる環境が整いつつあります。ストックオプションは発行会社側がキャッシュアウトすることなく役員や従業員等にインセンティブを提供できる極めて有用な手段であり、人的資本経営の強化にも資する制度です。

他方、低い権利行使価額によるストックオプションの発行は、会計上の費用の増加による事業計画への影響、株主間の利害調整、資本政策への影響など多方面に影響をおよぼすため、多面的な検討が必要です。上場準備会社等においては、税務・会計・法務を横断した体制のもと、制度設計を慎重に進めることが成功の鍵となります。

制度が拡充された今こそ、自社の成⾧ステージと経営戦略に沿った最適なストックオプションの活用を検討していくことが重要です。

あいわ税理士法人グループでは、多くの専門家が在籍するインセンティブ・プラクティスグループを設け、会計・税務・財務・資本政策等多角的な視点からストックオプション導入についてのご支援をしています。加えて、豊富な経験を持つ法務専門家とも連携し、ストックオプションの設計から実行までトータルでサポートが可能ですので、ストックオプションの導入をご検討されている企業様は是非お声がけください。

あいわのサービス概要
ストックオプション導入支援: https://www.aiwa-tax.or.jp/consulting/stockoption/

インセンティブ プラクティスグループ(executive-compensation@aiwa-tax.or.jp

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