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ニュースレター2025.10.14

【経営管理】経営者のリーダーシップが導く業務プロセス改善と可視化の重要性

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士 橋本 慶介

はじめに

多くの企業が直面する「生産性の向上」、「コスト削減」、「従業員の負担軽減」といった経営課題。これらの解決に不可欠なのが「業務プロセス改善」です。しかし、明確なビジョンや戦略なしに部分的な改善を試みても根本的な解決には至らず、現場の混乱を招くだけで、期待した効果が得られずに形骸化してしまうケースも少なくありません。この改善活動を全社的な成功へと導き、一過性のイベントで終わらせないためには、客観的な事実を捉える「業務の可視化」が不可欠であり、その活動を組織文化として根付かせ、継続的な改善の大きな流れへと発展させるためには、経営者の揺るぎないリーダーシップが決定的な役割を果たします。

そこで本稿では、業務プロセス改善を成功に導く「業務の可視化」の重要性と、それを全社的な活動として推進する上で不可欠な経営者のリーダーシップについて考えてみたいと思います。

なぜ今、業務プロセス改善が求められるのか

少子高齢化による労働力不足、市場ニーズの多様化と高度化、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速など、現代のビジネス環境はめまぐるしく変化しています。限られた人的リソースで多様なニーズへ迅速に応えるためには、組織全体の業務効率を極限まで高めることが必須です。旧来の非効率な業務、例えば多重の承認プロセスや手作業によるデータ入力、部門間で重複する報告書作成などを放置すれば、意思決定の遅延や顧客への対応の遅れを招き、競争優位性を失う直接的な原因となります。

また、特定の担当者にしか分からない「属人化」した業務は、その担当者の退職や異動によって業務が停滞するリスクを抱えるだけでなく、⾧年培われた技術やノウハウが組織に蓄積されず、事業の継続性を根本から脅かします。これは、優秀な人材の離職が、事業の競争力低下に繋がることを意味します。さらに、非効率で将来性の見えない業務は、従業員のモチベーションを低下させ、エンゲージメントの喪失、ひいては離職率の増加にも繋がりかねません。

業務プロセス改善は、単なる目先の効率化に留まらず、こうした経営リスクを低減し、従業員がより創造的で付加価値の高い仕事に集中できる環境を整え、変化に迅速かつ柔軟に対応できる強固な経営基盤を築くための、戦略的な取り組みと言えるのです。

成功の基盤となる「業務の可視化」

目的地も現在地も分からないまま航海に出ることが無謀であるように、現状を正確に把握せずして有効な改善策は見出せません。「業務の可視化」は、業務プロセス改善という航海の成功に不可欠な「地図」の役割を果たすための基盤です。代表的な手法である「業務フローチャート」や「業務記述書」の作成、必要に応じてBPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)のような専門的な手法も活用し、業務の流れ、内容、担当者及び所要時間を客観的な形にすることで、以下のような効果がもたらされます。

  • . 課題の客観的な発見
    担当者の主観や「昔からこうだったから」という慣習に頼るのではなく、「A 部署からB 部署への情報連携がメールの手作業で行われており、月平均5 時間のロスと入力ミスが3%発生している」といった具体的な問題点を、誰の目にも明らかな事実として特定できます。これにより、勘や経験だけに頼らない、データに基づいた改善策の立案が可能になります。
  • . 関係者間の共通認識の醸成
    可視化された資料は、部門や役職を超えて業務の全体像を共有するための「共通言語」となります。
    例えば、営業部門が作成する見積書の一項目が、後工程である経理部門や製造部門の業務にどれだけ大きな影響を与えているかを相互に理解できれば、部分最適ではなく、企業全体の利益を最大化する視点で建設的な議論が促進されます。これは部門間の壁を取り払い、円滑な連携を生み出す土台となります。
  • . 業務プロセスの改善効果の定量的な測定
    業務プロセスの改善活動を行う前に、業務の処理時間、コスト、エラー発生率といったKPI(重要業績評価指標)を数値で記録しておくことで、改善後の状態(To-Be)との比較が可能となります。これにより、「新システムの導入によって、受注処理時間が平均30%削減され、年間でXXX 万円の人件費削減に相当する」といった改善活動の投資対効果(ROI)を客観的に評価し、経営層への説明責任を果たすと共に、次の改善活動へのモチベーションへと繋げることができます。
  • . ナレッジの共有と標準化の促進
    可視化された業務プロセスは、そのまま新入社員や異動者への教育・研修資料として活用できます。
    これにより、OJT(On-the-Job Training)の効率が向上し、担当者による業務品質のばらつきを防ぎ、組織全体の業務レベルを底上げすることにも繋がります。
  • . システム化・DX 化の設計図
    業務プロセスが明確に定義されていなければ、どのようなシステムを導入すべきかの要件定義が曖昧になります。可視化された業務フローは、RPA(Robotic Process Automation)や基幹システムを導入する際の、精度の高い設計図そのものとなり、手戻りのない効果的なIT 投資を実現します。

業務プロセス改善の成否を分ける経営者のリーダーシップ

業務の可視化によって課題が明らかになったとしても、それが実際の改善活動に繋がらなければ意味がありません。ここで決定的に重要になるのが、経営者のリーダーシップです。業務プロセス改善は、既存のやり方の変更を伴うため、部門間の利害が対立したり、「今のやり方で問題ない」、「新しいことを覚える時間がない」といった現場からの心理的な抵抗が必ず生じます。これを乗り越えるのは、現場レベルの努力だけでは極めて困難です。

経営者は、まず「なぜ今、我々は業務プロセス改善に取り組むのか」というビジョンを、「3 年後に業界トップの顧客満足度を実現するため」といった具体的な言葉で全社員に示し、それが企業の持続的成⾧に不可欠な最重要課題であるという強いメッセージを発信し続けなければなりません。その上で、改善活動を主導する専門チームの設置や、各部門のキーパーソンの任命はもちろん、彼らが日常業務に忙殺されることなく改善活動に専念できるよう、業務量の調整や権限委譲を行うといった、具体的なリソース配分が不可欠です。これは、改善活動という航海を強力に推し進める「エンジン」の役割を果たします。

さらに、可視化によって明らかになった数々の課題の中から、インパクトの大きさや実現可能性を考慮し、どの改善活動からどのような優先順位で実行するのか、最終的な意思決定を下す必要あります。これは、改善活動という航海の目的地へ正しく船を導く「羅針盤」の役割です。例えば、特定の部署からの反対があったとしても、全社的な生産性向上という大局的な視点から、新しいIT システムの導入や、時には組織構造の変更といった痛みを伴う判断を下す勇気が求められます。

そして、経営者自らが改善活動の進捗を定期的に確認し、小さな成功であっても全社で共有し、成果を上げたチームや個人を正当に評価し賞賛することで、組織全体のモチベーションは飛躍的に高まります。「改善活動は評価に繋がる」という文化を醸成することが、社員の当事者意識を育み、持続的な改善サイクルを生み出すのです。経営者のこのような一貫した強いコミットメントこそが、組織の壁を越え、一過性のイベントではない、継続的な改善文化を醸成する最大の原動力となるのです。

終わりに

現場主導の業務の可視化は、業務プロセス改善という航海の成功に不可欠な「地図」を手にいれるための第一歩です。しかし、それはあくまでスタートラインに過ぎません。この「地図」を手に、経営者が強いリーダーシップを発揮することで業務プロセス改善という航海の「羅針盤」を示し、時には嵐を乗り越えるための強力な「エンジン」になることが必要です。この「現場によるボトムアップの可視化」と「経営者によるトップダウンの意思決定と推進力」という両輪がしっかりと噛み合うことで、初めて企業は変化の時代という荒波を乗り越え、持続的な成⾧という目的地に到達することができるのです。

経営管理 プラクティスグループ(business-admin@aiwa-tax.or.jp

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