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ニュースレター2025.6.23

【審理部】実質審理の流れ

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士 村山 昌義

はじめに

国税に関する法律に基づく処分に不服がある者が審査請求書を提出した場合(以下、審査請求書を提出した者を「審査請求人」といいます。)、国税不服審判所ではまず最初に形式審査を行い、形式審査をクリアした場合に、その事件を担当する審判官の指定及び合議体が編成され実質審理に入ります。

国税不服審判所では、審査請求書を受理してから裁決をするまでの標準的な審理期間を1年(注1)と定めており、結論が出るのはだいぶ先のように思えますが、1年は⾧いようで短いものです。

そこで本稿では、実質審理に入ってから裁決がされるまでの流れについて、主要なポイントを中心に確認するとともに、審査請求人に認められている手続きを確認したいと思います。

実質審理の流れ

実質審理は、担当審判官及び二名の参加審判官で構成する合議体を中心に進められます。

合議体は、審査請求人の申立てに係る原処分の全体の当否を判断するために、審査請求人及び原処分庁双方の主張に耳を傾け、双方より提出された証拠書類等や担当審判官が職権により収集した証拠書類等を吟味し、審理が尽くされたと判断した場合には、合議体の結論を出し(これを「議決」といいます。)、さらに議決に基づいて国税不服審判所⾧が裁決が下します。実質審理の流れの中で主要なポイントをまとめると以下のとおりです。

(1) 答弁書の提出

国税不服審判所⾧は、審査請求書が本案審理要件(注2)を満たす場合には、原処分庁に対して、相当の期間を定めて答弁書の提出を求めます。この場合、原処分庁は審査請求人が審査請求書で記載した「審査請求の趣旨」及び「理由」に対応して、原処分庁の主張を記載して答弁書を提出しなければなりません。

原処分の理由は、更正通知書等により既に明らかにされていますが、答弁書に記載された原処分庁の主張は、更正通知書に記載された理由をさらに詳細かつ明確にしたものと言えます。また、原処分庁は答弁書の提出とともに、処分の理由となる事実を証明するための証拠書類等を提出してきます。

原処分庁が国税不服審判所に提出した答弁書についてはその副本が、証拠書類等については証拠説明書が審査請求人に送付されます。証拠説明書をみれば、原処分庁がどのような証拠書類等を、どのような事実を立証する目的で提出してきたのかがわかるため、後述する3.(1)の証拠書類等の閲覧等の請求をするか否かの判断材料になります。

(2) 反論書及び証拠の提出

審査請求人は、送付された答弁書の記載事項に対し反論する場合には、反論を記載した書面(以下「反論書」といいます。)を提出することができます。そして審査請求人から提出された反論書は、その副本が原処分庁に送付され、反論書の記載内容について原処分庁がさらに反論する場合には書面を提出し、その後は双方主張が尽くされるまで書面(答弁書及び反論書の提出後以降に原処分庁及び審査請求人双方から提出される主張書面を「意見書」といいます。)のやり取りが繰り返し行われます。

答弁書の提出は原処分庁の義務であるのに対し、反論書の提出は審査請求人の義務ではありません。

したがって、審査請求書に記載した事項で既に主張を尽くしたと判断するのであれば、提出しなくてもかまいません。ただし、担当審判官が反論書を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内に反論書を提出する必要があるため、答弁書の記載内容を確認次第、反論書を提出するかしないかを速やかに判断し、提出する場合には担当審判官が定めた提出期限までに提出する必要があります。なお、担当審判官が指定した期限内に提出できない場合には、さらに1~2週間程度の再提出期限が設けられます。

この他、審査請求人は自己の主張を理由付け又は原処分庁の主張を打砕く証拠書類等を提出することができます。証拠書類等の提出も義務ではありませんが、自己の主張を認めてもらうためには積極的に提出するほうがいいでしょう。とりわけ、立証責任(注3)が審査請求人にある事案の場合には、早めに証拠書類等を提出することが望ましいといえます。なお、証拠書類等を提出する際は、「証拠説明書」に提出する証拠書類等の名称、どのような事実を立証するための証拠書類等なのかを明記する必要があります。

(3) 初回請求人面談

担当審判官は、実質審理に入った後なるべく早いタイミングで審査請求人の話を直接聞くために面談を実施します(以下「初回請求人面談」といいます。)(注4)。初回請求人面談では、審査請求人の主張の確認をするとともに、本稿で解説する審査請求の流れや、審査請求人に認められている手続きの説明がされます。したがって、審査請求をしたことがない方であっても、初回請求人面談に臨めば、手続上の不安は解消されると思われます。

(4) 担当審判官による質問検査等

担当審判官は、審理を行うために必要があるときは、職権で審査請求人又は原処分庁に質問し、又は、相当の期間を設けて証拠書類等の提出を求めることができます。

なお、ここでいう質問検査等は、原処分庁職員による質問検査権の行使(いわゆる税務調査)とは異なります。審査請求人が、担当審判官からの質問に答えず、又は、証拠書類等の提出要求に応じなかったとしても罰則が課されるわけでありません。しかし一方で、これにより審査請求人の主張の全部又は一部についてその基礎となる事実を明らかにすることが著しく困難になった場合には、明らかにならない審査請求人の主張の全部又は一部は採用されない可能性があるため注意が必要です。
審査請求人は、課税要件に則したものであれば何を主張するのも自由ですが、主張の基礎となる事実を明らかにするための質問検査等に応じないと、主張自体が取り上げられてもらえない可能性があるということです。

(5) 争点の確認表の送付

上記(1)及び(2)で提出された各主張書面により最終的な争点が確定した段階で、担当審判官から「争点の確認表」が送付されます(注5)。
「争点の確認表」には、争点及び争点に対する原処分庁と審査請求人の主張が簡潔に記載されているため、審査請求人としては、自己の主張が担当審判官に正しく伝わっているか、漏れがないかなどを確認することができます。仮に、正しく伝わっていない主張や、取り上げられていない主張がある場合には、担当審判官にその旨を伝える必要がありますが、従前の主張とは異なる新たな主張をする場合には、別途意見書を提出する必要があります。

なお、争点とは、課税要件のうち原処分庁と審査請求人とに争いがあり、原処分の適否又は当否に影響する対立点をいいます。したがって、課税要件に関連のない主張や原処分の適否又は当否に影響を与えない主張、税務行政に関する不満などは原則として取り上げられません。

(6) 審理手続の終結通知

担当審判官は必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結し、審査請求人及び原処分庁に対してその旨を文書で通知します。また、審査請求人が相当の期間内に反論書を提出しなかったり、担当審判官からの再三の提出要請にも関わらず証拠書類等を提出しなかった場合には、もはや主張立証の機会を与える必要はないとして、審理手続が終結されることがあります。

そして、審理手続が終結すると、審査請求人は反論書及び意見書の提出や、下記3.に掲げる審査請求人に認められている手続きを行うことができなくなります。
なお、審理手続が終結した後は、国税不服審判所の内部において、合議体による議決、法規審査を経て国税不服審判所⾧による裁決がなされ、裁決書謄本が審査請求人及び原処分庁に送達されます(注6)。

審査請求人に認められている手続き

審査請求人には、上記2.とは別に下記の手続を行うことが認められており、これらは主張立証活動を積極的に推し進める手続きと言えます。

(1) 証拠の閲覧請求又は写しの交付請求

審査請求人は、上記2.(1)により原処分庁から提出された証拠書類等を確認したいと思ったときは、「閲覧等の請求書」を提出することにより、閲覧又は写しの交付を求めることができます(注7)。ただし、証拠書類等の内容が全てが開示されるわけではなく、第三者のプライバシーを侵害したり、税務執行上の機密に触れる場合など、第三者の利益を害する恐れがあると認められる部分は、マスキング処理されたうえで開示されます。このように、マスキング処理を行う都合上、審査請求人が「閲覧等の請求書」を提出してから実際に閲覧又は写しの交付を受けるまでには、通常1カ月以上の時間を要します。

ここで注意すべきは、実際に証拠の閲覧又は写しの交付を受ける前に、上記2.(2)の反論書の提出期限がきてしまうということです。反論書では答弁書に記載されている原処分庁の主張や認定事実に反論するわけであり、そのためには原処分庁から提出された証拠書類等を確認しなければ有効な反論ができないにも関わらず、証拠書類等を確認する前に反論書の提出期限が来てしまいます。

このような場合、証拠書類等を確認しなければ反論ができない論点については、反論書にその旨を記載して一旦期限内に提出し、証拠書類等を確認でき次第改めて意見書で反論することになります。

(2) 質問検査の申立て

上記2.(4)の担当審判官による質問検査等とは別に、審査請求人は「質問、検査等を求める旨の申立書」を提出することにより、担当審判官に対して、原処分庁又は関係人その他の参考人(注8)に質問をし、証拠書類等の提出をするように求めることもできます。事案の性質にもよりますが、例えば、原処分庁にとって都合の悪い証拠があり、それが提出されていない場合や、事実関係を把握している客観的な第三者の話を聞いてもらいたい場合に活用ができます。

ただし、質問検査等の申立てをしても、実際に質問検査等をするか否かは担当審判官の判断に委ねられているため、申立書を提出すれば担当審判官が必ず実施してくれるわけでない点に注意が必要です。

(3) 口頭意見陳述の申立て

口頭意見陳述とは、審査請求人が、書面による主張を補うことなどを目的として、担当審判官に対して口頭で意見を述べることをいい、「口頭意見陳述の申立書」を提出することにより実施されます。実質審理の方式については、明文規定はないものの書面審理が原則であるため、口頭意見陳述は書面審理を補充する手続きとも言えます。
口頭意見陳述には、合議体メンバーのほか原処分庁の不服申立担当者も出席し、審査請求人は、担当審判官の許可を得て、処分の内容や理由などについて直接原処分庁の担当者に質問をすることができます(これを「発問権」といいます。)。ただし、口頭意見陳述当日のスムーズな議事進行のために、発問権を行使したい場合には、どのような質問をするのかをまとめた書面を事前に提出をする必要があり、原処分庁側にも当該質問を共有したうえで、当日臨んでもらうことになります。

また、しばしば誤解されますが、原処分に係る税務調査を担当した職員が、原処分庁の担当者として出席するわけではありません。審査請求人の中には、税務調査を担当した職員に一言物申したいと意気込んでくる方がいますが、税務調査を担当した職員は出席しませんし、クレームをいう場でもありません。審査請求人の発言が、意見や発問権の行使を超えてクレームや相手を罵倒する発言にまで及んだ場合には、担当審判官は質問を認めず、注意に従わない場合にはその時点で打ち切ることもあります(注9)。

おわりに

本稿では、実質審理に入ってから裁決がされるまでの流れについて、主要なポイントと審査請求人に認められている手続きを確認しました。上述したように、標準審理期間1年というのは⾧いようで短いものです。

適時適切なタイミングで主張をし、証拠書類等の提出その他の手続を行うことは決して簡単なことではありません。その意味では、1年間共に伴走をしてくれる代理人の存在は重要といえるでしょう。

(注1) 国税不服審判所HP にて公表。なお、標準的な審理期間を経過したことをもって、不作為の違法又は手続上の瑕疵にはあたらないとされています(不服審査基本通達(国税不服審判所関係)77-7 の2)。
(注2) 本案審理要件については、過去の審理部ニュースレターをご参照ください。
(注3) 立証責任とは、立証の対象である要件事実(課税要件事実)が真偽不明になった場合、その事実が不存在であるとして、法律効果の発生が認められないという当事者の一方が負う危険又は不利益をいいます。
(注4) 初回請求人面談のタイミングは、事案の性質や担当審判官の判断にもよりますが、筆者の場合は、答弁書を審査請求人に送付したタイミングで実施するケースが多かったと記憶しています。
(注5) 「争点の確認表」は審理手続の中盤以降に送付されるものですが、これとは別に、概ね3カ月おきに「審理の状況・予定表」という文書が担当審判官から送付されてきます。当該文書には、現時点の争点や、今後の調査審理の予定・計画等が記載されており、合議体の審理の状況をうかがい知ることができます。
(注6) 筆者の経験上、審理手続が終結してから裁決書謄本が送達されるまで2~3カ月を要します。既に述べたとおり標準審理期間を1年とし、形式審査に1カ月程度かかるとすると、担当審判官が調査審理をしている期間は実質8~9カ月程度といえるでしょう。
(注7) 閲覧等の対象には、原処分庁が提出した証拠書類等だけでなく、担当審判官が職権で収集した証拠書類等も含まれます(上記2.(4)参照)。一方で、担当審判官が作成した質問調書や釈明陳述録取書など審判所内部で作成された文書は閲覧等の対象にはなりません。
(注8) 関係人とは事件に関係を有する者の総称であり、参考人とは、そのような者を含め、担当審判官の判断の参考に供するため調査の相手方とする取引先等をいいます。
(注9) 具体的な統計数値があるわけでありませんが、口頭意見陳述の申立てをする審査請求人はほとんどいないのが実情のようです。筆者も特定任期付職員として勤務した3年間のうち、口頭意見陳述を実施したのは1件だけでした。口頭意見陳述は対審的構造であるがゆえに、往々にして審査請求人がヒートアップするため、担当審判官にとっては最も神経を使う手続きと言えるかもしれません。

審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp

  • 税理士/元国税審判官 尾崎 真司
  • 税理士/元国税審判官村山 昌義
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