東京都港区の税理士法人 あいわ税理士法人/あいわAdvisory株式会社

 
お問い合わせ

ニュースレター・コラム

コラム2023.9.1

【コラム】エンジェル税制の改正について~スタートアップ企業への投資の促進~

著者:小田 智明

はじめに

「スタートアップ5 か年計画」では、スタートアップ企業は社会的課題を成⾧のエンジンに転換して、持続可能な社会を実現するまさに「新しい資本主義」の考え方を体現するものと位置付けています。

しかし、我が国のスタートアップエコシステムは人材・事業・資金の各面で課題があり、欧米諸国と比較してもスタートアップ企業やユニコーン企業の数が低い水準で推移しています。特に資金面について事業化前段階(プレシード・シード期)の企業への投資は限定的となっています。
この課題を包括的に解消するべく、岸田政権は令和4年を「スタートアップ元年」とし、日本の経済成⾧とイノベーションの推進を目指し、起業家やベンチャーキャピタリストに対する支援策を展開しました。その中で、目標実現のために掲げた「スタートアップ育成5 か年計画」の一環として、個人投資家に対する税制優遇措置であるエンジェル税制の拡大が令和5年度税制改正により行われました。

今回は、税制改正により非課税措置などが増設された、エンジェル税制について解説いたします。

概要

エンジェル税制とは、個人投資家が一定の要件を満たすスタートアップ企業など創業から間もない企業に対して投資を行った場合、株式投資利益に対する課税について下記の税制優遇が受けられる制度です。

投資時点
  • 優遇措置A
    ① (投資額-2,000 円)をその年の総所得金額等から控除可能
    ② 上限は800 万円又は総所得金額等×40%のいずれか低い方
  • 優遇措置B
    ① 投資額をその年の他の株式譲渡益から控除可能
    ② 控除上限なし
  • プレシード・シード特例(税制改正により増設)
    ① 投資額をその年の他の株式譲渡益から控除可能
    ② 控除上限なし
株式売却時点
  • 譲渡損、繰越控除の特例
    株式の売却により生じた譲渡損失は、その年の他の株式譲渡益と通算可能(その年に通算しきれなかった部分については、翌年以降3年にわたって順次株式譲渡益と通算可能)となります。
    また、投資企業が上場しないまま破産、解散等して株式の価値がなくなった場合にも、その損失の金額を株式の譲渡損失とみなして譲渡益と通算し、通算しきれなかった部分についても翌年以降3 年にわたり通算が可能となります。
    通常、未上場株式を売却したことにより生じた譲渡損失は、その年の未上場株式譲渡益との通算に限られ、上場株式譲渡益と通算をすることができず、翌年以降に繰越すこともできません。
    しかし、エンジェル税制適用会社の株式を売却したことにより生じる譲渡損失については、上記のとおり通算及び繰越しが可能となります。
  • 取得価額の調整
    優遇措置A、B の適用を受けている場合は、投資した年に受けた控除額分だけ、その株式の取得価額が減額されます。(譲渡益が発生した場合も同様)
    そこで、今回の税制改正のポイントであるプレシード・シード特例では、投資した年において控除した金額について20 億円を上限として非課税となり、優遇措置A、B のような取得価額の調整が不要となりました。



(注)エンジェル税制は、基本的に住民税について適用はありませんが、譲渡損が出た場合の通算及び損失の繰越しについては適用がありますのでご留意ください。

適用要件

本制度の適用を受けようとする場合、次の(1)投資家要件(2)企業要件を、払込みをした日時点(※1)ですべて満たす必要があります。
(※1)事前確認を受ける場合は、その申請の日時点

(1)投資家要件
  • 投資先会社が同族会社(※2)である場合には、持分割合の大きいものから数えて第3位までの株主グループの持分割合を順次加算し、その割合が初めて50%超になる時における株主グループに属していないこと
    (※2)同族会社とは、その会社の上位3 位までの株主グループが、当該企業の株式等を50%超保有している会社を指します。
  • 投資先会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人及びその親族等でないこと
  • 金銭の払込みにより投資先会社の株式を取得していること
(2)企業要件
  • 特定中小会社等(※3)に該当すること
    (※3)特定中小会社等とは、次に掲げる法人をいいます。
    ・特定中小会社
    イ)中小企業等経営強化法に規定する特定新規中小企業者に該当する株式会社
    ロ)設立の日以後10 年を経過していない中小企業者に該当する一定の株式会社など
    ・特定新規中小会社
    イ)中小企業等経営強化法に規定する特定新規中小企業者に該当する一定の株式会社
    ロ)設立の日以後5 年を経過していない中小企業者に該当する一定の株式会社など
  • 外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れている会社であること(プレシード・シード特例を受ける場合は、1/20以上)
  • 大規模法人グループの所有に属していないこと
  • 未登録・未上場の株式会社であること
  • 風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと
  • それぞれの優遇措置について、以下の設立経過年数ごとの要件を満たすこと

(出典:金融庁のHP より)

(3)その他

エンジェル税制の適用を受けるためには、投資先の企業から適格企業(3.(2)の企業要件を満たす企業)である確認書の交付及び確定申告が必要になります。

起業特例 (起業した際に発起人が受けられる特例)

(1)概要
この制度は、一定の要件を満たす場合に発起人が会社の設立時とその株式の売却時に下記の優遇が受けられる制度です。

設立時点

出資した金額をその年の株式譲渡益から20 億円を上限として控除が可能

株式売却時点

上記2のプレシード・シード特例と同様本制度の適用を受けようとする場合、次の①起業家要件②企業要件を、それぞれ①は設立時、②は設立した年の12月31 日時点で満たす必要があります。

  • 起業家要件
    イ) 設立した会社の発起人であること
    ロ) 設立した会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人及びその親族等でないこと
    ハ) 金銭の払込により株式を取得していること
  • 企業要件
    イ) 設立1年未満の中小企業者であること(大規模法人グループに属している場合は適用対象外)
    ロ) 外部からの投資を1%以上取り入れていること
    ハ) 未登録・未上場の株式会社であること
    ニ) 風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと
    ホ) 他の事業者から譲り受けた事業を主たる事業としていないこと
    ヘ) 以下の設立経過年数ごとの要件を満たすこと

(出典:金融庁のHP より)


この制度はエンジェル税制の適用を受ける場合に比べると要件を満たしやすく、起業意欲の促進が期待されます。

その他の改正点(提出書類の省略化)

今回のエンジェル税制の改正では、税制優遇措置の拡大のほか、手続規定についても一部提出書類の簡素化や添付書類の廃止などが組み込まれています。従来までの煩雑な手続規定を廃止し利便性を向上させることで、投資家がよりエンジェル税制を利用しやすいようにし、スタートアップ企業への投資を後押ししようという狙いがあります。

おわりに

今回はエンジェル税制の概要を解説いたしました。ページの都合上、詳細については割愛している部分も多くあります。より詳しい優遇措置に関する内容や、適用要件、各種提出書類は経済産業省のホームページよりご確認ください。

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angeltax/index.html

投資家がエンジェル税制の適用を受ける場合は、その投資先企業がエンジェル税制の要件を満たすかを中小企業庁ホームページから確認することになります。投資家自らがその会社の実情を確認するなど、一定のハードルが存在します。そのため、仲介会社を利用して投資する株式投資型クラウドファンディングを利用する方法が現在増加傾向にあります。この方法の場合、従来は投資額に一定の制限が設けられていましたが、改正により一部制限が廃止されたことで、より仲介会社を利用した投資がしやすくなり、今後スタートアップ企業への投資が増加していくことが期待されます。

ニュースレター・コラム一覧へ戻る