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コラム2023.3.1

【コラム】令和5 年度税制改正大綱における相続税及び贈与税の改正

筆者:豐海 航

はじめに

令和4 年12 月16 日に自民党と公明党から令和5 年度税制改正大綱が発表されました。その中で今回は相続税及び贈与税の改正項目を取り上げて紹介します。

改正の目的

贈与税は相続税よりも税率が高く、そのため、将来の相続財産が比較的少ない層においては、生前贈与に抑制的となっています。一方、一部の富裕層については、生前に分割して贈与をすることにより、相続税よりも低い税率が適用されることになります。
改正の目的は、財産を移すタイミングで負担する税額が変わることがなくなるように税制を構築するとともに、高齢層から若年層への資産移転を促進させ、経済の活性化につなげることとされています。

贈与税の課税方式

贈与税は、個人が個人から財産をもらったときに課せられる税金です。贈与税の課税方式は「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかを選択することになります。

  • 暦年課税
    1 年間(1/1~12/31)に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110 万円を差し引いた残額(課税価格)に税率を乗じて贈与税額を計算する方法です。暦年課税は累進課税で、課税価格が大きいほど税率が高くなります。
  • 相続時精算課税
    贈与者ごとに、1 年間(1/1~12/31)に贈与を受けた財産の価額の合計額(課税価格)から特別控除額2,500 万円(前年以前にこの特別控除を適用した金額がある場合は、その金額を控除した残額)を控除した残額に20%の税率を乗じた金額が贈与税額となります。したがって、贈与を受ける財産の価額の合計額が贈与者ごとに2,500 万円以下であれば贈与税はかかりません。
    60 歳以上の父母・祖父母から18 歳以上の子・孫への生前贈与について、選択適用ができます。

相続税申告時の計算方法(改正前)

  • 贈与税申告時に「暦年課税」を選択していた場合
    相続開始前3 年以内の被相続人から贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算されます。これを生前贈与加算といいます。生前贈与加算の趣旨は、「相続開始前の駆け込み贈与による相続税の回避を防止するため、相続開始直前の贈与財産を相続税の課税に取り込み、相続税の資産の再分配機能を確保するためのもの」とされています。
  • 贈与税申告時に「相続時精算課税」を選択していた場合
    相続時精算課税を選択した年分以後に贈与により取得した財産の価額は、贈与者が亡くなったときに相続税の課税価格に加算されます。この制度の特徴は、「財産の価額に変動がないとすれば、相続による移転と贈与による移転の間で税負担に差異が生じないように設計されているため、資産移転の時期の選択に中立的な税制」といえることです。


なお、①及び②いずれの課税方式を選択する場合であっても、相続税の課税価格に加算された贈与財産に係る贈与税は相続税額から控除されますが、相続時精算課税を選択した場合に限り、控除しきれない金額がある場合は還付がされることになります。
また、一般的には、多額の財産が存在する富裕層おいては「暦年課税」の方が有利とされています。

令和5 年度税制改正の内容

  • 贈与税申告時に「暦年課税」を選択する場合
    暦年課税における生前贈与加算の期間を7年に延⾧(改正前は3 年)するほか、延⾧した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100 万円)については、相続財産に加算しないこととされました。
    当該改正については、令和6 年1 月1 日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
  • 贈与税申告時に「相続時精算課税」を選択する場合
    相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除 110 万円を控除できることとされました。
    ※相続時精算課税適用者とは財産の贈与を受けた個人をいい、特定贈与者とは財産を贈与した個人をいいます。
    また、贈与者が亡くなったときの相続税の課税価格に加算される贈与財産の価額は、上記の基礎控除を控除した後の残額とされます。
    当該改正については、令和6 年1 月1 日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。

その他の改正について

  • 相続時精算課税で受贈した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時にその課税価格を再計算する見直しを行うこととされました。当該改正については、令和6 年1 月1 日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます。
  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、所要の見直しを行った上で、適用期限が3年延⾧されます。
  • 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、所要の見直しを行った上で、適用期限が2年延⾧されます。

最後に

贈与税申告時に「暦年課税」を選択する場合、令和6 年1 月1 日以後に贈与により取得する財産に係る相続税から改正内容が適用されるため、令和9 年に発生する相続まで実質的な影響はありません。
一方、「相続時精算課税」についても、基礎控除(年間110万円)が設けられることになり、相続時精算課税を選択した場合の基礎控除までの贈与財産の価額は、相続財産の価額に加算されないため、贈与税だけでなく、相続税も課税されないこととなります。
いずれにしても、ご自身の財産内容を把握したうえで、今まで以上に早期の贈与を検討する必要がある点については十分留意が必要です。

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