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コラム2022.12.1

【コラム】財産評価基本通達6 項に係る 最高裁判決の概要

筆者:酒井 拓哉

はじめに

路線価による相続財産の評価が、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)6 項(以下「総則6 項」という。)の適用によって否認された事例について、令和4 年4 月19日に最高裁判所において納税者敗訴の判決が下されました。
今回は、裁判事例の概要と路線価評価が否認された要因について整理していきます。

財産評価の原則

相続税法第22 条においては、「特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定されており、相続税法第23 条から第26 条に定められているもの以外の財産については、時価により評価する旨だけが定められています。他方で、時価の内容は法律の解釈によって委ねられており、この点について評価通達では、「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」としています。

相続税や贈与税の計算において財産を評価する場合には、評価通達に基づいて財産の価額を評価することになります。

例えば、土地であれば評価通達においては路線価方式と倍率方式の2 種類の評価方法が定められており、これらの方法で評価した価額を用いることになります。また、時価は相続等により財産を取得した時におけるものと規定されており、この財産を取得した時とは、原則として相続開始日(被相続人が死亡した日)となります。

総則6 項とは

総則6 項では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁⾧官の指示を受けて評価する。」とされており、国税庁⾧官が評価通達によらない別の評価方法を指示し、その指示された評価方法に従って財産の評価を行うことになります。

もっとも、この場合における「著しく不適当」とは明確な基準があるわけではなく、何をもって「著しい」のかという点について争いになるわけです。

裁判事例の概要

被相続人X(以下「X」という。)は、平成24 年6 月に94歳で死亡しました。路線価による評価が否認された財産は不動産A(取得価額8 億3,700 万円)及び不動産B(取得価額5 億5,000 万円)で、X は自身が経営する会社の事業承継の一環として、生前に不動産A を平成21 年1 月に、不動産B を平成21 年12 月にそれぞれ購入しており、これらの不動産の購入資金として、不動産A の購入時に6 億3,000 万円を銀行から借り入れ、不動産B の購入時に相続人のうちの1 人から4,700 万円、銀行から3 億7,800 万円を借り入れました。これらの不動産は、X の遺言によって相続人のうちの1 人が取得しました。このうち不動産B は、これを取得した相続人が平成25 年3 月に5 億1,500 万円で第三者に売却しています。

相続税の申告では、路線価により不動産A 及びB を合計約3 億3,300 万円と評価し、申告における課税価格の合計額は約2,826 万円とされ、基礎控除額である3,000 万円以下であるため相続税の総額は0 円となりました。

その後、国税庁⾧官は、総則6 項の適用により各不動産を路線価評価とは別の評価方法で評価することを指示し、税務署⾧はその指示に従って平成28 年4 月に相続人に対して、不動産鑑定評価額に基づいて不動産A の価額を7 億5,400 万円、不動産B の価額を5 億1,900 万円として更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。

今回の判決では、不動産A 及びB について評価通達に基づいて評価を行うと、租税負担の公平性を著しく害してしまうと認められることから、路線価による評価ではなく、総則6 項適用による不動産鑑定評価額に基づいた課税処分は適法であるとされました。判決における特記すべき内容は、「通達評価額と鑑定評価額との大きなかい離という事情」を問題にするのではなく、平等原則の観点から「租税負担の公平に反する事情」を指摘している点となります。

路線価評価が否認された要因

(1)銀行借入による税負担の軽減が著しいものであった

当初の相続税申告における課税価格は約2,826 万円でしたが、仮に、銀行借入による不動産A 及びB の購入がなかったとした場合における相続税の課税価格の合計額は6 億円を超えるものでした。これらの差額は約5 億7,000 万円であり、銀行借入による不動産の購入によってもたらされる課税価格の圧縮効果が大きく、銀行借入による不動産購入を行わなかった、またはそれをすることができない納税者と比べると税負担の軽減が著しいものであり、「看過し難い不均衡」があったということになります。

(2)相続後すぐに不動産を売却した

不動産B を相続により取得した相続人は、相続税の支払に充てる金銭を確保するなどの理由もなく相続後すぐに不動産B を売却しました。当初申告に係る相続税額は0 円であるため、納税のために不動産を売却する必要はなかったといえます。このことから、不動産の購入自体が税負担の軽減を意図したものであると認定されたといえます。

(3)高齢の方が多額の銀行借入によって不動産を購入した

X は不動産購入時点において90 歳であり、とても高齢の方でした。また、各不動産購入の際に銀行から借り入れを行った金額は合計で約10 億円であり、高齢の方が銀行借入を行うにはとても多額な金額であったといえます。このことから、X が行った銀行借入は、X の相続発生が近いことを予測したうえで税負担を軽減するために行われたものであると認定されたといえます。

おわりに

今回の裁判事例では、被相続人が90 歳と高齢であるにもかかわらず、多額の銀行借入を行ったうえで使途のない不動産の購入を行い、それによる税負担の軽減を享受後(相続税の手続完了後)に当該不動産を売却したことが路線価評価否認の一つの要因であると考えられます。そのため、残されたご家族に対する財産承継について不動産の活用をご検討されている場合には、相続人を含めて⾧期的な計画を立て、早期の段階から財産構成の検討や組替えを行うことが重要であるといえます。

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