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コラム2022.9.1

【コラム】インボイス制度導入に伴う免税事業者取引の対応

筆者:平田 俊邦

はじめに

令和5 年10 月1 日から、適格請求書保存方式(以下「インボイス制度」といいます。)が実施されます。インボイス制度は、仕入先事業者が所定の記載事項を満たした適格請求書(以下「インボイス」といいます。)を発行し、買い手事業者にてインボイスを保存することで、適用税率や消費税額等を明らかにするための制度です。

インボイス制度実施後に仕入税額控除を行うためには、仕入先事業者からインボイスの交付を受け、これを保存することが必要となりますが、インボイスを発行できるのは所轄税務署⾧の登録を受けた課税事業者のみであり、消費税の納税義務が免除される免税事業者は、インボイスは発行することができません。そのため、買い手事業者は、免税事業者からの仕入れにつき仕入税額控除を行うことができなくなり、このままでは納付すべき消費税の負担額が増加することになります。そこで、買い手事業者が取りうる消費税負担増の対応策が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」といいます。)、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)に抵触しないか検討する必要があります。この点、「週刊税務通信No3707 令和4 年6月13 日号」17 頁目にインボイス制度 免税事業者取引の対応のポイントという記事がありましたので、一部抜粋してご紹介します。

免税事業者取引の対応

  • 課税事業者への転換を要請してもよいか
    インボイス制度下では、インボイスを発行できない仕入先免税事業者との取引につき、買い手事業者は仕入税額控除ができなくなります。そこで、買い手事業者としては、仕入先免税事業者に対して、課税事業者となってインボイスを交付するよう求めることが考えられます。しかし、課税事業者への転換により、仕入先免税事業者には、これまで納付が免除されていた消費税を負担しなければならないという不利益が生じることになりますのでこのような要請が独禁法で禁止されている優先的地位の濫用や下請法違反になるのではないかという検討が必要になります。
    この点、免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(以下「インボイス対応Q&A」といいます。)のQ7 第6 項にて以下の記載があります。

    インボイス対応Q&A のQ7 第6 項【登録事業者となるような慫慂】

    “ 課税事業者が、インボイスに対応するために取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それに応じなければ取引を打ち切ることにするなど一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。”

    買い手事業者としては、課税事業者としての登録を要請する際は、あくまで仕入先免税事業者の任意の判断に委ねつつ、これに応じられなかった場合は、取引価格の引下げ等を求めて、仕入先免税事業者との取引において増加する経済的負担の分配を目指すことが対応策として考えられます。

  • 取引価格の引下げを求めてもよいか
    買い手事業者としては、インボイスを発行できない仕入先免税事業者との取引につき、仕入税額控除を行うことができなくなるため、従前よりも消費税の負担が増加することになります。そこで、仕入先免税事業者に対し、取引対価を引き下げることによって、増加する負担をカバーしようとすることが考えられます。しかし、「買いたたき」は優先的地位の濫用行為の典型例であり、また下請法による親事業者の禁止行為としても挙げられていますので、仕入先免税事業者に対する「取引対価の引下げ要請」が買いたたきに該当し、優先的地位の濫用や下請法違反となるのではないかが問題となります。この点、インボイス対応Q&A のQ7第1 項にて以下の記載があります。

    インボイス対応Q&A のQ7 第1 項【取引対価の引下げ】

    “ 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優先的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。”

    買い手事業者は、仕入先免税事業者に取引対価の引下げを要請するにあたっては、上記記載の通り、具体的な検討が求められることになります。ただ、仕入先免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担額を把握していないことがほとんどでしょうから、まずは、仕入先免税事業者から、仕入れや諸経費の内容や原価率・経費率といった情報を無理のない範囲で提供してもらい、少なくとも、そのような仕入れや諸経費に対する消費税分を仕入先免税事業者に負担させることにならない範囲で取引対価を取り決めるよう努めるべきことが考えられます。

おわりに

インボイス制度の導入に伴い社内体制を整備することが必要となります。買い手事業者は、免税事業者取引に係る消費税の負担増の対応策が、独禁法及び下請法に抵触していないかご確認ください。

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