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コラム2014.3.1

【コラム】残業代を精算した場合の取扱い

筆者:中村 彰利

『ブラック企業』という言葉が昨年の新語流行語大賞のトップ10 に入りました。
昨年12 月に厚生労働省から発表された『若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況』では、実施事業所のうち82%の事業所で法令違反が見つかりました。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000032425.html)

このような世間の関心の高まりから、最近では労働基準監督署の目が厳しくなっており、過去数年間に渡り残業代を支払っていなかった企業が指導等により、従業員に対し未払いとなっていた残業代を一括で支払うケースが増えています。従業員規模が多い企業では、その精算金額が数億円にのぼるとも言われております。
企業が過年分の残業代を支払う場合の支払い方法は様々で、(1)損害賠償金として一時金として支払うケース(以下「一時金ケース」)や(2)過去の給与等の後払いとして支払うケース(以下「後払いケース」)があるようです。
今回はこのように過去の残業代の精算を行った場合に、実務上どのような取扱いになるか税目ごと(社会保険料等含む。)及びケースごとに説明致します。

法人税

過去の残業代を一括支給した場合には、上記(1)、(2)いずれのケースも法人税法上は過去にさかのぼって修正はせず、支払いをした期の損金として取扱います。
企業会計では過去の事業年度に係る損益については遡及して修正はせず、当期の損益として認識する事とされており、法人税は原則として会計処理の基準に従うとされているためです。

所得税・住民税

所得税・住民税については(1)の一時金ケースと(2)の後払いケースで取扱いが異なります。

(1) 一時金ケース

過去の残業代を一時金として支払った場合には、賞与と同様に取り扱われます。過去の労働に対する対価になりますが、当期に支払うことが確定した給与等に該当します。
支払いを受けた従業員にとっては臨時の賞与と同様となるため、過去に遡って年末調整等はする必要はありませんが、支払いを受けた年の所得税、その翌年の住民税の負担が増える点に注意が必要となります。

(2) 後払いケース

過去の実労働時間に基づく未払残業代を過年分の給与等として支払った場合には、本来の各支給日に支払うべき残業代を一括して支払ったものと認められますので、本来支給日の属する年の給与所得となります。
未払残業代を支払った企業は、残業代を支払った各従業員の過年分の所得税の年末調整をやり直した上で、納付不足となっていた所得税分を、未払残業代を支払った月の翌月10 日までに納めなければなりません。
加えて、住民税の算定基礎となる給与支払報告書を各自治体へ再提出を行います。対象となった各従業員には各自治体から納税通知書が送られ各々で納めることになります(普通徴収)。
また、従業員が住宅ローン控除や医療費控除等の適用を受けるために確定申告をしていた場合には、修正申告を提出する必要があるため、従業員に対し修正申告が必要という通知や指導等が必要となります。

社会保険料等

社会保険料等についても(1)一時金のケースと(2)の後払いケースで取扱いが異なります。

(1) 一時金ケース

過去の残業代を一時金として支払った場合には、所得税等と同様に賞与として取扱います。
支払いをした時の賞与と認識するため、過年分の保険料の修正は必要ありませんが、支払いを受けた年の社会保険料等の負担は増える事になります。

(2) 後払いケース

所得税等と同様に、本来の各支給日に支払うべき残業代を一括して支払ったものと認められますので、本来支給日の属する年の給与等となります。
そのため、遡って支給した残業代が4 月~6 月分である場合には、社会保険料の算定基礎届の訂正届を社会保険事務所等に提出する必要があります。

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