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コラム2022.5.1

【コラム】IPO に備えた収益認識会計基準の適用について

筆者:石原 幸記

はじめに

2021 年4 月以後に開始される事業年度より、「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)が上場企業に適用されています。売上計上の前提となる継続的な会社の営業活動に対する基準の改正のため、実務上の影響は決して小さいものではありません。さらに監査法人との見解相違から、その対応に苦慮するケースも多く見受けられます。
上場準備企業においても今後対応が必須であり、監査対象となる期間前に、収益認識基準を念頭においた会計処理の検討および収益認識に係る業務フローの整備等を進める必要があります。

会計処理の検討方法について

収益認識の検討を行う場合、企業と顧客との契約の内容に合わせて、次の5 つのステップを検討することになります。

(Step1)契約の識別
(Step2)履行義務の識別
(Step3)取引価格の算定
(Step4)履行義務への取引価格の配分
(Step5)履行義務の充足による収益の認識

契約の識別

まず、収益認識基準を適用する場合は、次の①から⑤の要件のすべてを満たす顧客との契約を識別します。

  • 当事者が書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
  • 移転される財またはサービスに関する各当事者の権利を識別できること
  • 移転される財またはサービスの支払条件を識別できること
  • 契約に経済的実質があること(契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期または金額が変動すると見込まれること)
  • 顧客に移転する財またはサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと


例えば、ソフトウェア受注制作で開発工程ごとに分けて契約を締結している場合における、売上の計上単位(工程ごとか、全ての工程を一体と見るか)が本ステップの検討にあたります。

履行義務の識別

(Step1)で識別した契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別します。

  • 別個の財又はサービス(あるいは別個の財またはサービスの束)
  • 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)


具体的な例として、ソフトウェア開発とその後のサポート・サービスを組み合わせて提供する場合の売上の計上単位(二つの取引を別々の単位と見るか)の検討がこれにあたります。
また、卸売業における取引、小売業におけるいわゆる消化仕入、メーカーの製造受託の取引や有償支給取引、電子商取引サイト運営に係る取引などの売上高の表示方法(総額で表示すべきか(本人の場合)、手数料相当額の純額で表示すべきか(代理人の場合))等についても、本ステップで検討が必要となります。

取引価格の算定

次に、第3のステップとして、取引価格を算定します。
収益認識基準上の「取引価格」とは、財またはサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除きます。)をいいます。なお、取引価格には、契約の条件や取引慣行等が考慮されます。

履行義務への取引価格の配分

本ステップでは、(Step3)で決定した取引価格を(Step2)で識別した履行義務に配分します。各履行義務の取引価格として定義されていないサービスに関しては、再検討が必要となります。

履行義務の充足

最後のステップとして、(Step2)で識別した各履行義務にける収益認識時点を決定します。
約束した財またはサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時にまたは充足するにつれて、収益を認識します。履行義務の充足の有無に関しては、たとえば下記のような場面で留意が必要です。

  • ソフトウェア開発やビル建設等の⾧期の個別受注取引等の売上高の計上方法(進捗に応じて売上計上すべき取引かどうか。)
  • 出荷してから顧客による検収までの期間が一定程度ある取引の売上計上時点
  • サービス業における入会金など企業が返金不能の前払報酬を受領した場合の売上高の計上方法(売上は一時点か、サービス提供期間に応じて計上か。)

おわりに

収益認識基準は、規定されている内容に抽象的な概念が多いため、実務における個々の取引にあてはめを行うことが困難なことがあります。検討にあたっては、早期に監査法人や外部のアドバイザーの指導のもと着手いただくことをお勧めします。

【出典】「日本公認会計士協会 株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック(会計監査を受ける前に準備しておきたいポイント)」

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