筆者:税理士 村山 昌義
国税に関する法律に基づく処分に不服がある者が処分の取消しを求める場合、国税不服審判所に対して審査請求をする方法と、裁判所に対して取消訴訟を提起する方法が考えられます。我が国では、審査請求に対する裁決を経た後でなければ訴訟を提起することができないとされており、納税者は訴訟を提起する前に必ず審査請求をしなければならず、これを「不服申立前置主義」といいます(注1)。したがって、納税者は国税不服審判所による審査請求と、その後の裁判所による取消訴訟の両方に対応する必要がありますが、審査請求と取消訴訟では、審査の範囲と審査手続きが微妙に異なるため、両者の違いを理解しておく必要があります。
そこで本稿では、審査請求と取消訴訟における審査の範囲及び審査手続きの違いを確認し、併せて、審査手続きを経て国税不服審判所⾧がした裁決には、どのような効力があるのかを確認します。
審査の範囲の考え方には「総額主義」と「争点主義」という考え方があります。取消訴訟においては総額主義の考え方が採用されているのに対し、審査請求においては総額主義と争点主義の両方の考え方を取り入れた「争点主義的運営」をしており、両者にはそれぞれ以下の特徴があります。
総額主義とは、審理の範囲は原処分によって認定された所得全体の当否に及ぶとする考え方をいい、争点主義とは、審理の範囲は原処分の認定額のうち不服申立てに係る争点事項とこれに密接に関連する事項に限定されるという考え方をいいます。
取消訴訟においては総額主義の考えを採用していますが、過去の判例(注2)では、審査請求手続きにおける審査の範囲についても、総額主義の立場を採ることが明らかにされています。
上記(1)のとおり、過去の判例では審査請求においても総額主義の立場を採ることが明らかにされていますが、総額主義に対しては以下に掲げる懸念点があると言われています。
上記のような懸念点(注3)を考慮して、審査請求では争点主義の考え方も取り込んだ争点主義的運営が行われています。争点主義的運営とは、審理の範囲は総額に及ぶが審判所で行う新たな調査(注4)は争点事項に限られるとする運営方針をいいます(注5)。
審査請求人の中には、審査請求をすることで、「本当に争いたいこと以外のことまで調べ上げられるのではないか?」や「結局は国税不服審判所も原処分庁の味方で、原処分庁の主張を補強するだけなのではないか?」と懸念する声もあります。しかし、国税不服審判所は第三者的機関として中立性を確保しているとともに、争点主義的運営によってこれらの懸念点を回避しており、なによりも、不利益処分(原処分に係る納税額を上回る裁決をすること)が禁止されていることから、この点に関する心配はいりません。
審査請求と取消訴訟では、その審査手続きにも違いがあります。すなわち、取消訴訟では「弁論主義」を採用しているのに対し、審査請求では「職権探知主義」を採用しており、両者にはそれぞれ以下の特徴があります。
弁論主義とは、当事者の主張と証拠に基づいて審理を行うことをいい、以下に掲げる3つのテーゼがあります。
上記は民事訴訟における基本原則と位置づけられていますが、行政訴訟においては、公益に関する事項の判断が求められることから第3テーゼに修正が加えられ、当事者が提出した証拠に限定されず裁判所による職権証拠調べが認められています(行政事件訴訟法24 条)。
職権探知主義とは、当事者が主張しない事実を職権で取り上げて、その存否を調べることをいい、弁論主義を修正したものといえます。審査請求では職権探知主義を認めていると解されており、当事者が主張しない事実であっても、審判所が争点主義的運営に基づき判断をする上で必要な事実であれば職権で取り上げて、職権証拠調べを行うことができます。審査請求が納税者の権利利益の救済を図ることを目的としていることを考えれば、職権探知主義は整合的といえるでしょう。ただし、職権で取り上げるといっても、争点事項及び争点関連事項以外の事項を取り上げないことは上記2(2)のとおりです。
しかし、当事者が主張しない事実を取り上げて判断することは、当事者にとっては不意打ち(反論の機会を奪うこと)になるため、審理の手続上、審判所は必ず求釈明を行うこととされています。求釈明とは、当事者の主張や提出資料について不明点等がある場合に、追加の説明等を求める行為をいい、通常は、審査請求人の主張が曖昧で課税等要件との関連性が不明確な場合や、審査請求人と原処分庁の主張が噛み合わないときなどに実施されます。
審判所から求められた求釈明が、それまでの自分の主張や原処分庁の主張とは一見関係なさそうなものである場合には、当事者が気付いていない論点を審判所が重視している可能性があります。その後の審理の流れを予測するヒントになるといえるかもしれません。
以上を踏まえ、審査手続及び合議体の議決を経た後に、審査請求に理由がない場合には棄却の裁決を、理由がある場合には全部若しくは一部の取消し(注6)の裁決を、国税不服審判所⾧が議決に基づいて行います(注7)。
国税不服審判所⾧が下した裁決もまた「処分」に該当するため、裁決には以下の効力があります。
不可変更力とは、裁決に瑕疵があった場合でも審判所自らこれを取消し又は変更することは許されないという効力をいい、自縛力ともいわれています。
例えば、原処分庁がした処分等について、原処分庁自らが誤りに気付いた場合にはその処分を取消すことができますが、審判所がした裁決については、審判所が自ら誤りに気付いたとしても裁決を取消すことはできません(注8)。
不可争力とは、一定期間の経過後は、当該処分が違法であっても争うことができなくなることを意味します。裁決の場合でいえば、審査請求人が裁決があったことを知った日から6か月以内に取消訴訟を提起しなければ、その効力を争うことができません(行政事件訴訟法14 条)
審査請求人は、出訴期間の期限徒過をした場合には、不可争力により司法手続きによる救済の途が閉ざされるため注意が必要です。
形成力とは、行政処分により一方的に国民の権利義務又は法的地位を形成・確定する効力をいいます。裁決もまた行政処分であるため、国税不服審判所⾧による原処分の取消裁決が、その裁決によって租税法律関係を形成・変更する効力をいい、改めて原処分庁の行動を待つ必要がないことを意味します。
例えば、原処分庁が審査請求人に対してした増額更正処分が審査請求で取り消された場合には、取消裁決により増額更正処分の効力が失われ、別途、原処分庁による減額更正処分等が行われるわけではありません(当該処分に係る納付済みの税額は還付されることになります。)。
国税通則法102 条では、「裁決は関係行政庁を拘束する。」と規定し、裁決の拘束力について定めています。この場合の裁決の拘束力は取消処分に限られ、棄却裁決や却下裁決には拘束力はありません。したがって、棄却裁決が下された後に、原処分庁が再調査等に基づき再更正処分を行うことも妨げられません(注9)。
また、拘束力が及ぶ範囲は、主文及びその前提となった課税等要件事実の認定と理由付けの判断のみとされています。これにより、原処分庁は、取消裁決と同じ事実の下で同じ理由により取り消された原処分と同一の処分(再更正処分等)をすることはできません。
しかし例えば、原処分庁がした更正処分等に対する審査請求において、更正通知書の理由付記の不備と実体法上の課税要件に関する争点があった場合において、審査請求人の主張どおり理由付記に不備がある場合には、理由付記の不備それ自体が処分の取消事由に該当し得ることから、審判所は課税要件に関する争点について判断するまでもなく取消処分をします。この場合、原処分庁は再調査を経たうえで改めて理由付記を充足した更正処分を行うことは可能とされています。なぜならば、審判所は課税要件に関する争点については何ら判断しておらず、この点に関して原処分庁を拘束しないからです。
公定力とは、違法な処分であっても、権限ある機関によって取り消されるまでは有効であるとする考え方をいいます。裁決もまた処分に該当することから、裁判所によって取り消されるまでは有効とされます。
ところで、裁決の内容に納得がいかず取消訴訟を提起する場合、裁判で争う対象は原処分(原処分庁がした更正処分等)になります(原処分主義)。裁決の取り消しも訴訟物になり得ますが、裁決が固有の瑕疵により取り消されたとしても、自動的に原処分が取り消されるわけではない点に注意が必要です。
上記のとおり、裁決にはさまざまな効力があり、これらの効力は裁決書謄本が審査請求人へ送達された時に生じます。
本稿では、審査請求と取消訴訟における審査の範囲及び審査手続きの違い、そして、裁決の効力について確認しました。
納税者の中には、国税に関する法律に基づく処分に不服がある場合でも、審査請求に踏み切ることを躊躇する方が一定数います。確かに、審査請求を行うことで追加の労力や時間を消費することはありますが、審判所の現場では、争点主義的運営や職権探知主義という考え方に基づき、納税者の声に真摯に耳を傾け、拙い主張でもなんとか汲み取ろうという姿勢で調査審理が行われており、審査請求をすることで納税者としても一定の納得感が得られることもあります。課税処分に納得がいかないときには、審査請求を有効に活用してみてはいかがでしょうか。
あいわ税理士法人の審理室では、国税不服審判所において国税審判官の勤務経験を有する税理士二名を擁し、クライアントの税務調査や審査請求等に対応しています。審査請求等をしたいけど具体的な手続きが分からない、主張の組み立て方や提出証拠の選択に悩んでいる納税者・顧問税理士の方は是非お気軽にお声がけください。
(注1) 厳密にいえば、審査請求書を提出してから3か月を経過したときは、裁決を待たずして訴訟提起をすることも可能です。
(注2) 最判昭和49 年4月18 日第一小法廷・訴月20 巻11 号175 頁
(注3) 上記のほか、総額主義に関連する論点として「処分理由の差替え」を認めるか否かの問題があります。過去の判例では、処分理由の差替えを認めており(最判昭和56 年7 月14 日第三小法廷)、審査請求においても基本的には判例を踏襲し、処分理由の差替えを認めています。
(注4) ここでいう「調査」は、原処分庁が行う調査と同じ意味ではなく、審査請求人が質問・検査等に対して協力しないことがあっても罰則は適用されません。ただし、質問・検査等に対する不協力等の結果、審査請求人の主張の基礎を明らかにすることが著しく困難になったときは、当該主張は採用されないため注意が必要です。
(注5) 南博方「租税訴訟の理論と実際」34 頁(弘文堂、1980 年)
(注6) この他にも、変更の裁決がありますが、審判実務上はほとんどないため、本稿では割愛します。
(注7) ただし、審査請求人に対する不利益処分は禁止されています。また、審査請求が期限徒過その他の理由により不適法の場合は、審査手続を経ることなく却下裁決が下されます。
(注8) ただし、裁決の同一性を害しない範囲で、計算上の誤りや書損じ等の軽微な誤りは訂正できると解されています。
(注9) 最判昭和33 年2月7日・民集12 巻2号167 頁
審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp)