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ニュースレター2025.5.26

【審理部】形式審査(その3)~請求の利益~

AIWA NEWS LETTER

筆者:税理士 村山 昌義

はじめに

国税不服審判所では、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者から審査請求書が提出された場合、まず最初に形式審査を行い、当該形式審査をクリアした場合には実質審理に入り、クリアできない場合には、実質審理に入ることなく却下裁決(門前払い)が下されます。

形式審査では、審査請求書の記載事項に不備がないか、本案審理要件を満たすか否かの審査が行われ、本案審理要件には、主に、①不服申立期間、②処分該当性、③不服申立適格、④請求の利益の4つの項目が挙げられます。

本稿では、本案審理要件のうち「請求の利益」について解説いたします(注1)。

請求の利益

請求の利益とは、行政事件訴訟法第9条《原告適格》第1項かっこ書きで規定されている「狭義の訴えの利益」(注2)と同じと解されており、不服申立てをする者が、処分の取消によって現実に回復すべき法律上の利益を有していることを意味します。したがって、仮に取消裁決が下されたとしても、回復すべき法律上の利益がなく、請求人の救済とならない場合は、請求の利益はないとされます。

典型的な例として、減額更正処分が挙げられます。減額更正処分には処分性があり、減額更正処分を受けた者は、処分の名宛人として不服申立適格を有していますが、減額更正処分には、その取消しによって回復すべき法律上の利益はありません。なぜならば、減額更正処分とは、納税者自身の申告等により確定させた税額を原処分庁が減額する処分(つまり、税額が減額され、それ自体が納税者にとって利益になる処分)であり、当該処分を取消すということは、自ら不利益処分を求めることと同じだからです。

したがって、減額更正処分には請求の利益がないとされ、本案審理要件を満たさず、仮に審査請求をしたとしても却下裁決が下されることになります。
上記の減額更正処分は典型的な例ですが、この他にも注意すべきケースがあるため、以下で確認したいと思います。

(1) 処分理由についての不服

更正処分等による課税標準等及び税額に不服がなく、単に処分理由の内容に不服があるだけでは、請求の利益はありません(東京地判昭和35 年3月15 日・税資33 号332 頁)。一方で、法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項では、青色申告書に係る法人税の課税標準等の更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を付記しなければならない旨を、行政手続法第14 条《不利益処分の理由の提示》では、行政庁は不利益処分をする場合には、その名宛人に不利益処分の理由を示さなければならない旨(注3)を規定していることから、これらの処分理由を欠いていることを違法事由として、更正処分等による課税標準等及び税額の取消しを求める場合には、請求の利益はあるといえます。

処分理由の不備を違法事由とする審査請求は比較的多いですが、既に判例で確立された解釈もあり、当該解釈を踏まえたうえで取消しに至るケースは非常に少ないのが現状です。この点については、別の機会に解説したいと思います。

(2) 調査手続きの違法

上記(1)と同様に、更正処分等による課税標準等及び税額には不服がなく、単に税務調査の際の調査官の対応に不服があるだけでは、請求の利益はありません。一方で、調査手続きを違法事由として、更正処分等による課税標準等及び税額の取消しを求める場合には、請求の利益はあるといえます。しかし、調査手続きを違法事由として処分が取消されるためには、「調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の程度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、当該処分の取消原因となる」(東京高判平成3年6月6日・月報38 巻5号878 頁)とされ、著しい違法性がある場合に限られます。

調査手続きの明確化が図られている現行の国税通則法(以下「通則法」といいます。)のもとでは、調査手続きを違法事由として更正処分等が取消されるのは、よほどのレアケースといえるでしょう(注4)。

(3) 審査請求中に処分が取り消された場合

審査請求中に処分が取り消された場合には、取消裁決によって回復すべき法律上の利益は存在しないため、請求の利益はありません。

(4) 審査請求中に再更正処分がされた場合

審査請求中に再更正処分がされた場合には、当該再更正処分が増額再更正処分か、減額再更正処分かによって異なります。すなわち、増額再更正処分が行われた場合には、当初の更正処分とは別に、増額再更正処分に伴う増差税額についても請求の利益が認められ(注5)、請求人は増額再更正処分に対しても審査請求をすることができます(審判実務上、このような場合には、通則法第104 条《併合審理等》に規定する「併合審理」が行われるのが一般的です。)。

これに対して、審査請求中に当初申告額と同額とする(又は当初申告額を下回る)減額再更正処分が行われた場合には、請求の利益はありません。また、減額再更正処分をしてもなお当初申告額を上回る場合(すなわち当初の更正処分の一部を減額にしたに過ぎない場合)には、減額再更正処分には請求の利益はないものの、当初の更正処分(減額更正後のもの)については、請求の利益はあるといえます。

ところで、審査請求中に原処分庁が自ら処分の瑕疵に気付き、当初更正処分を取消したうえで、再度更正処分をした場合には特に注意が必要です。すなわち、当初更正処分を第1次更正処分、第1次更正処分を取消すために行う減額再更正処分を第2次更正処分とし、第1次更正処分の瑕疵を補ったうえで再度行う増額再々更正処分を第3次更正処分とした場合、第1次更正処分に対してのみ審査請求をしただけでは、第2次更正処分により当該審査請求に係る請求の利益は消滅しており却下裁決が下されるため、第3次更正処分について新たに審査請求をしないと救済を受けられないという事態が起こり得ます(最判昭和49 年9月19 日・民集21 巻7号1828 頁、「まからずや事件」(注6))。

もっとも、審判実務上、このような場合には「併せ審理」(注7)が行われる可能性もあり、直ちに権利救済の途が閉ざされるわけではありません。

(5) 更正決定後に修正申告をした場合

更正決定処分についての不服申立ては、更正決定後に修正申告がされた場合には、納付すべき税額は増額された部分を含む全額が即時確定するということができ、その限りで先にされた更正決定はその修正申告に吸収されて消滅し、その存在意義を失ったというべきであるから、その更正決定の取消しを求める訴えの利益はなくなります(最判平成6年12 月6日・税資1~249 号582 頁)。

おわりに

本稿では、本案審理要件のうち請求の利益について解説しました。

自身が受けた処分に処分性があり、不服申立適格を満たしていたとしても、請求の利益を欠く場合は、本案審理要件を満たさず、実質審理に入ることなく却下裁決が下されます。とりわけ、上記2.の(4)など更正、再更正処分が重層的に行われる場合には、どの更正処分について審査請求をするのか整理する必要がありますし、(4)の場合では、権利救済の途を自ら潰しかねないこともあるため注意が必要です。

以上、前回、前々回と形式審査について解説してきましたが、これらをクリアして、ようやく本案審理に入ることができます。どんなに主張したいことがあっても、また、その主張が理由のあるものだとしても、実質審理に入らなければ耳も傾けてもらうことなく門前払いとなってしまいます。形式審査は審査請求における最初の関所といえるでしょう(注8)。

(注1) 審査請求書の記載不備と補正方法、本案審理要件のうち、①不服申立期間、②処分該当性、③不服申立適格については、過去掲載の審理部ニュースレターを参照。
(注2) 行政事件訴訟法第9条第1項かっこ書きでは、「処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む」と規定しています。また、講学上は、原告適格を含めて「広義の訴えの利益」と表現されることがあります。
(注3) 行政手続法が規定する不利益処分に係る理由の提示としては、いわゆる白色申告法人に対する更正処分や、承認済の申請に対する取消処分などがあります。
(注4) 調査手続きの重大な違法性を認め、処分を取消した裁判例として、京都地判平成12 年2月25 日・訟務月報46 巻9号3724 頁。なお、筆者が国税不服審判所ホームページで調べる限り、調査手続きを違法事由として処分を取消した裁決事例は確認できませんでした。
(注5) 訴訟においては、当初更正処分は増額再更正処分によって消滅し、当初更正処分の取消しを求める訴えの利益はないと解されています(吸収説)。これに対して審査請求では通則法第29 条《更正等の効力》及び同法104 条を根拠に、当初更正処分と増額再更正処分は併存するという考え方(併存説)が採用されています。
(注6) 本件は訴訟段階における更正処分と再更正処分の関係を判示したものでありますが、審査請求においても同様と考えます。
(注7) 併合審理及び併せ審理については、別の機会に解説を予定しています。
(注8) 本稿の参考文献として、志場喜徳郎他共編『国税通則法精解』(大蔵財務協会、第17 版、2022 年)、中里実他共編『租税判例百選(有斐閣、第7版230-231 頁、2021 年)

審理部 税務調査総括担当(tax-investigation@aiwa-tax.or.jp

  • 税理士/元国税審判官 尾崎 真司
  • 税理士/元国税審判官村山 昌義
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