筆者:八木 沙枝子
サステナビリティ(Sustainability)とは、日本語では「持続可能性」と表現され、環境・社会・経済などの持続可能な発展を目指す考え方を意味します。
2023年1月に企業内容等の開示に関する内閣府令等が改正され、有価証券報告書等においてもサステナビリティ情報の開示が求められるようになりました。今後、さらなるサステナビリティ情報開示の義務化が予定されています。
本稿では、サステナビリティ情報の開示についてご紹介します。
2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことが日本でも宣言され、サステナビリティに関する取組みが企業経営の中心的な課題となるとともに、それらの取組みに対する投資家の関心が高まっています。
このような状況の中、国際的にもサステナビリティ開示の基準策定が進んでいます。日本でも2022年7月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が設置され、サステナビリティ開示の検討が進められることになりました。
これまで、日本でのサステナビリティ情報の開示は、統合報告書などの任意開示が主流となっていました。
サステナビリティ情報開示を義務化する規則の第一段階として、2023年3月決算より、有価証券報告書においてサステナビリティ情報に関する開示が導入され、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄の新設、「従業員の状況」の記載における多様性の指標に関する開示が追加で求められることになりました。新設及び追加となった記載項目は以下の通りです。
(1)ガバナンス(全企業が開示)
・ サステナビリティ関連のリスク及び機会に対するガバナンス体制
(2)戦略
・ サステナビリティ関連のリスク及び機会に対処する取組み(重要性を判断して開示)
・ 人的資本について、人材育成方針や社内環境整備方針(全企業が開示)
(3)リスク管理(全企業が開示)
・ サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別・評価・管理するために用いるプロセス
(4)指標及び目標
・ サステナビリティ関連のリスク及び機会の実績を評価・管理するために用いる情報(重要性を判断して開示)
・ 人材育成方針や社内環境整備方針に関する指標の内容、当該指標による目標・実績(全企業が開示)
・ 女性管理職比率
・ 男性育児休業取得率
・ 男女間賃金格差
なお、サステナビリティ情報開示の充実化に向けた実務の積上げ・浸透を図る取組みとして、金融庁から「記述情報の開示の好事例集」も公表されています。
2024年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が「サステナビリティ開示基準の適用」「一般開示基準」「気候関連開示基準」(以下、これらを併せて「サステナビリティ開示基準」という)の公開草案を公表しました。これは、サステナビリティ情報開示を義務化する規則の第二段階となるものです。当該公開草案は国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとするため、IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS1号及びIFRS2号)の内容と原則的に整合する内容となっており、サステナビリティ開示基準の最終案は2025年3月の公表が見込まれています。
また、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」ではサステナビリティ開示基準の適用対象企業及び開示方法、第三者保証制度について以下の方向性が示されています。
(適用対象企業)
以下の通り、2027年3月期以降、時価総額3兆円以上のプライム上場企業から段階的に適用が義務化され、2030年3月期以降は順次全プライム上場企業に拡大し、その他の会社は任意適用促進により開示を底上げする方針になっています。
・ 時価総額3兆円以上プライム上場企業:2027年3月期適用義務化
・ 時価総額1兆円以上プライム上場企業:2028年3月期適用義務化
・ 時価総額5,000億円以上プライム上場企業:2029年3月期適用義務化
ただし、サステナビリティ開示基準の最終案公表後は任意適用を開始し、適用義務化を待たずに好事例等を参考にした任意適用促進が期待されています。
(具体的な開示方法)
サステナビリティ情報は財務諸表と同時開示が原則ですが、法定適用の初年度は二段階開示が経過的な措置として認められる見通しとなっています。二段階開示では①有価証券報告書で一段階目の開示を行い、その後、②有価証券報告書の訂正等により二段階目の追加開示を行うことになります。これは同時開示とした場合の企業の実務負担等を考慮した取扱いです。
(第三者保証制度)
サステナビリティ情報に対して、新たな登録制度の下で登録を受けた監査法人またはその他の保証業務提供者による限定的保証制度が付される方向で検討が進められています。
企業価値向上のためにも、各企業のサステナビリティに関する取組みは、今後の企業経営の重要課題であり、正確な情報に基づいたサステナビリティ情報の開示を適時に行うことが必要になります。